「装弾」の相談

クレー射撃をはじめて十年をとうに超えてしまったが,いまだにコツのなんたるかがわからない.
そんなぼやきを口にすれば,三十年以上の経験者から,「十年でわかってたまるか」といわれる.
直径11㎝ほどの飛翔する素焼きの皿を空中で,300粒ほどがはいった散弾で撃ち落とす.
これが上手くなって,なんの得があるのか?といわれれば,特にない.
趣味の世界とは,どれもがたいがいそうなっている.

散弾のタマのことを「装弾」と呼ぶ.
戦前からの火薬メーカーの老舗であった旭化成が,横浜の傾斜マンション問題で多額の補償をすることになったのをきっかけに,装弾製造事業から撤退してしまった.
「経営の多角化」とは,縮小時にいがいな影響力をもつものである.

射撃会に参加すると,サランラップの参加賞がつきものだったから,この十年,わが家は食品ラップ類を購入したことがなかった.しかし,旭化成さんへの売上貢献はラップの比ではない.
公式試合でつかうものから練習用まで,数種類の装弾があったが,いっぺんに入手不可となったから,あらためて自分の好みを見つけなければならない.

そこで,国内で入手可能な「装弾」をネットで探すのだが,なかなか詳しい情報がみつからない.
「よい弾」とは,「当たる弾」というかんがえがあたりまえだから,弾速と着弾における粒の広がり具合がスペックとなっている.

「散弾」なので,発射と同時に空気抵抗で粒が広がって飛ぶ.この広がる範囲が,ターゲットと遭遇する距離あたりで適確でないといけない.広がりすぎてしまえば,ターゲットの皿が隙間を通過してはずれることもあるだろうし,狭すぎればよほどドンピシャでなければ当たらない.
やればわかるが,飛んでいる皿を撃破するのはかなり難しい.

射手から30メートルから35メートルの距離で,だいたい直径70㎝くらいの範囲が理想という.
ところが,300粒ほどもあるから,平面的な網のように飛ぶのではなく,小鳥の集団が空中に図形をつくるように立体的なかたまりで飛んでいるらしい.「らしい」というのは肉眼では見えないからで,たまに超高速度撮影の動画をみつけてはみることができる.

射手にとっては,銃からの反動を受ける肩と,銃床を頬につける形が大変重要で,これを引き金を引く腕と,もう一方の腕で銃を支えるのが基本である.
許可を得ただれもが初めて撃ったときの「反動」は記憶しているだろう.
体重が軽い女性だと,三歩ぐらい後ろにさがるから,爆発の威力におどろくものだ.基本の姿勢がとれないと,体が衝撃にもっていかれる.

それで,だれもが「反動が軽い」装弾をもとめる.強い反動を撃つたびに受けていては,たいへん疲れるのだ.
ところが,選手級の射手になると,「強い」装弾をもとめるという.
粒と火薬の量は規定できまっているから,火薬の品質がちがうし,粒の強度がちがうから空気抵抗での拡散が減る.強度がないと,圧力でもとは球体の粒が変形してしまって空気抵抗を受けるのだ.「強い」ものは,火薬や粒などが高品質だから,高価格でもある.

結局,なにがちがうのか?
もちろん,粒を飛ばすエネルギーがちがう.変形しない強度の粒がちがう.だから,破壊力がちがうという.
試合では接戦になるのがふつうだから,破壊力は選手にとっては必須の要求である.
ところで,わたしのような中途半端な射手にはどうなのか?と選手級のひとに相談してみた.

すると,いがいな話が飛び出した.
「強い」装弾は,中途半端な構えをしていると「痛い」から,自分の構えが間違っていることをおしえてくれる.とくに「肩」に衝撃が来るという.
「弱い」装弾は,どんな構えでもなんとかなるから気づきがない,と.

ちゃんとした構えができていれば,どんなに強い装弾でも,とくに何も感じないという.
人体の構造は,きちんと衝撃を吸収できるようになっている.
ダメな構えは,その構造に無理がいくから痛みを感じる.
つまり,ちゃんとした構えができれば「当たる」のだ.

高くて高性能・高品質な装弾だから「当たる」のではない.
「当たる」構えを,傷みというセンサーで,できているかいないかを知らせてくれる「性能」があるのが,「高い」装弾なのだ.

これを「装弾」メーカーがいわない不思議がある.

利用者にとって,どんな価値があるかを知らしめると,利用者は購入したくなる.
これを知ったわたしは,これまで購入したことのない「高性能装弾」をすすんで購入した.
体のどこにどんな「痛み」を感じるかすら,楽しみである.
その痛い原因が,おそらく「当たらない」原因に通じているはずだからだ.

それで,原因がわかって,これまで以上に「当たる」ようになれば,外れのムダ弾が減少するから,結局は経済的なのだ.

これが顧客心理の一つの説明である.

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