アメリカ下院の影響力

議長選びでもたついた感があったアメリカ合衆国連邦下院議会ではあるけれど、「スタート・ダッシュ」はそれなりに強力だ。

日本の国会とちがって、アメリカ議会は下院と上院とで、役割がちがう。
外務次官でアメリカ大使だった、村田良平氏がのこした、「日本は一院制にすべし」とあるのは、戦後わが国の国会、とくに参議院がたんなる衆議院のコピーでしかないムダをいいたかったとかんがえられる。

わたしが子供だったずっとむかしから、「参議院改革」というグダグダをやっていて、さいきんではもうとっくに「飽きた」感がある。
国民を飽きさせるのがマスコミの役目なので、わざと枝葉末節の話を大袈裟にして、根幹に関わる議論を抹殺してきた成果なのだ。

それでもって、実質的に衆議院(外国では「下院」、身分制の英国では「庶民院」)だけの一院制になっていて、参議院をばかにしくさった結果として、一般人は参議院議員にしかなれない選挙制度をつくった。

むかしは、参議院を「良識の府」なぞとおだてていたが、選挙まで似せたので単なるコピーにした一方で、衆議院は厳しい小選挙区制にしたから、ぽっと出で勝てる要素がなくなった。
これが、議員の「世襲制」をつくって、「あたらしい身分社会」としたのである。

小選挙区制は政権交代を促す、というキャッチフレーズは、ウソだった。

それでも、参議院議員にだって、国政調査権があると「憲法62条」にあるから、あんがいと行政府からは侮れない。
これが、国民にとっての民主主義の「首の皮一枚」なのだ。

組織論として、時代の最先端の研究をするのは、大学という象牙の塔(ほんとうは「タコツボ」)にこもった学者ではなくて、軍隊だ。
同盟国だったヒトラーのドイツが、人類最初の「無差別爆撃」を、スペインのゲルニカでやった。

これで、戦争は兵隊同士の戦闘で決着をつける、という古今東西の常識がやぶられて、戦後の掠奪ではなくて、「戦略」という名目の一般人虐殺が戦争のオプションになった。
この最終オプションとして、核がある。

ちなみに、歴史的掠奪の阿鼻叫喚は、東ローマ帝国が滅亡した、コンスタンチノープルの陥落があまりにも有名だ。
攻めたオスマン帝国のメフメト2世が、自軍のあまりの蛮行に涙したという。

これをツヴァイクが、『人類の星の時間』の、エピソード、「ビザンチンの都を奪い取る」で描いている。

だから、軍のコアな思想には、兵隊同士の戦闘にいかに勝利するか?はいまどきの「紛争」レベルになったけど、これがまた、いまだに有効なのである。
ゆえに、クラウゼビッツの『戦争論』が、現代でも名著になっている。

 

むかしの軍(たとえば、大日本帝国陸軍と同海軍も、アメリカの陸・海軍も)は、それぞれ「陸軍省」と「海軍省」とがあって内閣に属した行政府と、陸の「参謀本部」と海の「軍令部」もまた、それぞれにあって分かれていた。

勝利を目指したら、統合することの有利に気がついて、アメリカは戦後の1947年になって、トルーマン大統領の要請でできたのが、「国防総省:いわゆるペンタゴン」だ。

じっさい、国防総省のなかに、かつての陸軍省やら海軍省が「統合」されているので、省内に省があるのは、官僚組織の壁の厚さを物語る。
しかして、国防総省となっても、行政機関なのだ。
なので、各軍の将官で組織する統合参謀本部は別にある。

これはどういうことかといえば、軍政(軍を維持するための行政)と、作戦(敵国や仮想敵国、あるいは同盟国間)とを分けているのである。

行政には、人事と予算が、統合参謀には作戦という役割が明確にされている。
もちろん、アメリカは合理的思想の国なので、制服を着た軍人はこの両者を人事異動で行き来するし、民間人でさえ専門家なら、「顧問」として両者に配置されている。

わが国の防衛省は、制服組を作戦にだけあたらせて、軍政(予算と人事)には一切タッチさせず、法学部をでた国家公務員だけがこれにあたっている。
これを、(広義の)シビリアン・コントロールだと信じている道理は、GHQの命によるだけなのは、本国のアメリカをみればすぐにわかる。

そんな視点で、アメリカ連邦議会をみると、下院が予算、上院が政府高官人事と外交(条約と批准)、という役割だから、議会においてさえ、より権力の分散を意図していることがわかるのである。

それで、これら「優先権」にあたらない議論は、両院で議決されて、「上」で決まらないと決まらない仕組みになっている。
その「上」は、単純多数決でないこともあるので、単純多数決しかしらない日本人にはわかりにくい。

バイデン氏や民主党、それに行政府のさまざまな「疑惑」について、下院の委員会が発足して、「捜査」を開始すると宣言している。
ただし、これらは大方、上院に持ち込まれるので、どうなるかは不透明だ。

しかしながら、昨年末に滑り込み成立した連邦予算案(4000ページ)を、たった3日で可決させたペロシ前議長が地団駄踏んで悔しがった、ちゃぶ台返しをさっそくやってひっくり返したのは、まずは「快挙」である。

ウクライナへの追加軍事支援予算も該当していて、戦争をやめさせることが明確な意志となっている。

上院で否決されようがなんであろうが、下院の捜査で上院に圧力をかけるばかりか、国民に実態をしらしめることが先だという戦略なのである。

つまり、これから先、アメリカはスキャンダルだらけ、になる。

これが、日本に影響しないわけがなく、70年代にいわれた「アメリカがクシャミをすると、日本は風邪をひく」どころか、もはや、「アメリカがクシャミをしたら、日本は即死しそう」な状態にある。

事実上、アメリカ民主党の日本支部となっているわが国与党は、持ちこたえられるのか?

読者の激減や視聴率の低迷で瀕死のマスコミが、一社でも「裏切って」、アメリカのスキャンダル・ラッシュを正確に報道したら、もしや経営再生になるのだけれど、そこは日本人だから、玉砕するまでがんばるのだろう。

その前に、愚民化しすぎた国民が寝たままのほうが、よほど悲惨で、新聞も、NHKの受信料も払えない貧困に、マスコミは負ける自業自得がやってくるのであろう。

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