伝えることが困難なわけ

とっくに世の中は、「情報化時代」といわれていて、さかんに「コミュニケーションが重要」とも叫ばれているのに、どういうわけかその「コミュニケーション」がおかしくなってきた。

誤解をおそれずにいえば、日本人は日本人を相手にしたときに「阿吽の呼吸」が通じるものだという思い込みがある。
だから、この思い込みに期待できない外国人には、ちゃんと伝えようと努力をするか完全にあきらめるのであって、ほとんどの場合あきらめるのだ。

この背景には、「同一文化」への信頼があった。
つまり、日本人とはこういうものだ、という共通点が、たとえ粗っぽくても「あるはず」だから、ことばが少なくても通じると信じたのであり、じっさいにそれで通じてた。

しかし、「情報化時代」とは、多様化の別のいいかたで、同一文化が「分散」しはじめたことを意味するから、「阿吽の呼吸」が成立しなくなった。

それにくわえて、日本語の「主語を省略する」特性が逆に作用して、聞き流していては意味が通じないし、都合のわるい表現を言葉にしない。
それで、いよいよコミュニケーションが難しくなってきたのである。

人間の基本的な要求はボディーランゲージでも十分伝わる。
これは、相手も理解しようと努めるからである。
すると、コミュニケーションというものには、かならず「自分と相手」がいる、という関係がなければならないことがわかる。

自分だけなら「ひとりごと」になってしまうから、あたりまえだ。
けれども、あんがいこの「あたりまえ」が重要なのである。

もっと「あたりまえ」をいえば、自分のいいたいことが相手に伝わったとき、相手が自分のいいたいことを理解したかしないかということに、言った側はその時点では、もはやコミットできないということがある。

相手がぜんぜんちがうようにとらえたなら、あらためて追加して説明するか、相手を罵倒するかという選択肢しか、言った側にはないのである。

言った側からすれば、相手を罵倒するしかなくなったとき、コミュニケーションに失敗したと認識できればまだ冷静だが、罵倒するのだから、たいがいは冷静さをうしなっている。

冷静にかんがえれば、相手の理解力はどうなのか?あるいは、相手はわざとわからない態度をとっているかもしれないと、おもいつく。

すると、相手側への観察・研究が最初にひつようになって、その対策結果がことばにならないと「伝わらない」のだ。

これは、「マーケティング」の基本ではないか?と膝をたたいたら立派なものだ。

ショッピングセンターにいけば、あらゆる商品がある。
むかしの「ウィンドウ・ショッピング」だって、お金がないからという理由だけでなく、それで「夢」を買っていた。
いつかは購入したい。これはいらない。あっ、こんなのがあるんだ。

このときは「ひとりごと」かもしれないが、商品をみながらちゃんと「対話している」から、立派な「コミュニケーション」なのである。

今年の9月30日には、各地で地元老舗百貨店の閉店があいついだ。
はたして「時代の流れ」だけが、不振の理由だったのか?
むしろ、買い物客とのコミュニケーションに失敗したのではなかったか?

原因分析がまちがっていたら、対策もまちがう。
その間違いを何年もくり返していたら、とうとう資本がつきて閉店になるのは当然だ。大手だろうが個人商店だろうがちがいはない。
冷たいようだが、あとはノスタルジーで「残念がる」しかない。

しかし、だからといって百貨店という業態が、いまの世の中に必要のない存在なのか?と問えば、きっとそれもちがう。
だから、どこかに「解」はあるのだ。

「売れる」理由も「売れない」理由も、あとからつけることはできるけど、「売れるようにする」には、購入客の研究が必須なのは、どちらさまもかわらない。

その「購入客」が、「同一文化」でなくなったから、売り手の「阿吽の呼吸」が通じなくなった「だけ」なのだ。

この「だけ」をもって、コミュニケーションが難しいというようになったのである。
そんなわけで、「伝える力」をみがくために、「伝わる」ということをかんがえないと、にっちもさっちもいかない。

こういう「掘り下げ」が、重要だということがわかる本である。

いまさらだが、困窮した企業ほど、こうした「掘り下げ」を嫌い、安易な「こうしたらできる」に誘引される傾向がある。
それが「どちらさまも」やってしまうから、業界全体が衰退することがある。

すると、もっと深く掘り下げれば、自分はなにものなのか?自社は何なのか?といった存在のありかたまでに行きつくのである。
そして、そこに重大なヒントがある。

残念な企業は、この追究の手間を惜しみ、とうとう時間切れになるのである。
それは、廃業してすらも、「伝えること」ができなかったということだから、この点こそがあらたに職をさがす従業員にとっての「残念」なのである。

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