優秀な人材がほしい

どの経営者とはなしても,だれもがもとめているのは「優秀な人材」である.
破綻しそうな企業では,「お金」に順位をゆずるけれど,それでも,この期に及んでなお,二番目に「優秀な人材」がほしいという.

パーティーなどの雑談の場でつっこみはしないけれど,再生の現場ではつっこまざるをえない.
それで,経営者や経営幹部に,優秀な人材とはどんな人材をいうのか?を書き出してもらうことをしたことが何度かある.

このブログの読者ならお気づきだろうが,まともにきちんとした日本語で書き出せるひとはすくないのだ.
もっといえば,コミック作品の主人公にあたる「スーパー・サラリーマン」のようなひとをイメージしていることがままある.

まさに,いまの副総理・財務大臣のように,マンガの読みすぎ,である.
こんな超人的人物が現実に入社したら,あなたは上司としてかえって困りませんか?と聞くと,たいがいの幹部はやっと気づいておどろくのだ.
なぜなら,それであなたはどんな仕事ができるのですか?あるいは,したいのですか?という質問がつづいて,ばあいによっては上司のほうが存在が否定されてしまうかもしれない.

さほどに曖昧な概念で,優秀な人材がほしい,と口にできるのは,実現性のほとんどない幻想だからである.
もちろん,再生現場だから,数年前から新入社員など採用していないし,パートさんの欠員すら補充できていない.
理由は,応募がないから,であることがふつうだ.残念ながら,この「ふつう」は,人的サービス業では「ふつう」になっているから,再生企業だけが苦しんでいるものでもない.

経営者や幹部が,優秀な人材がどんな人材なのかがわからないうちに,優秀な人材を募集しても,優秀な人材が採用できるわけがない.
こうしたことを理解してもらってから,あらためて当社にとっての優秀な人材とはどんな人材なのかを議論したら,でてくるのは「スペック」ばかりだった.

さらに,「即戦力」というスペックもかならず加わるのも特徴だ.
これは,「作業」のことを指す.
おなじような「作業」を,他社で経験したことがあれば,それを「即戦力」というからだ.
しかし,この「即戦力」には,自社で訓練する必要がない,という意味もある.

ふつう募集人材の「スペック」というと,学歴や,資格,職歴・勤務経験が典型的だ.
それで,話題をかえて,どんな人物と一緒に働きたいか?に振ったことがある.
すると,でてくるのは「人柄」に関するものばかりになった.
これは、接客業だから,という理由だけではない.

直接の接客を想定しない,たとえばボイラー技士であっても,一緒に働きたいか?という基準では,決め手は「人柄」なのだ.
そんな人物であれば,客室温度や風呂の湯温についても気遣いができるだろうと,かんたんに予想ができる.

整理しよう.
第一に「即戦力」になる,「優秀な人材」.
第二に「人柄」.
これは,自社での「人材育成」の放棄のようにもみえる,ある種の「むしのよさ」がみてとれる.

人口減少にともなう労働人口の減少は,「需要と供給」という経済原則によって,確実に価格上昇が予想される.
だから,企業は内部での人材育成という教育を実施しないと,本人のパフォーマンス分と賃金のバランスがとれなくなる.

イギリス人はとっくに意外な発想をしていて,

という本を書いている.
参考になるはずである.

ところで,2020年度から,同一労働同一賃金のための法制度が実施される.
対象となる法律は,
労働者派遣法,パートタイム労働法,労働契約法,である.
なお,中小企業は「改正パートタイム労働法」について,2021年度から適用されることになっている.

これらが実施されることは,もはや決定事項である.
つまり,未来はもう定められたのだが,この制度の運用のために,欧米では常識の「ジョブ・ディスクリプション」(職務記述書)が,わが国でも必要になるのではないか?
そうでなければ,雇用形態にかかわらず,同一労働同一賃金をどうやって実現するのか?

この書類は,職務内容,必要なスキル(資格ふくむ),賃金条件(労働時間ふくむ)などが記載されたもので,募集者が作成し応募者はこれをみて応募する.
一見,なにか特別なものにはみえないが,「労働市場」の要になるものだ.
「就職」であって「就社」ではないことに注意したい.

つまり,企業はほしい優秀な人材の「定義」を書いて公表しなければならないのだ.
このための準備はすすんでいるのだろうか?

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