必要経費も削減してしまう

経費削減がブームになって久しい

恐れ入ったことである.組織内の上も下も,「経費削減」がだいすきなのである.人的サービス業である,宿泊業や飲食業でも同様だが,そのやり方がほとんど稚拙である.それで,やったつもりになるから,業績は悪化の一途をたどる.すると,よりいっそう「経費削減」で業績回復を目指すようになる.まるで,競馬やパチンコといったギャンブルで負けたひとが,おなじ競馬やパチンコで取り返そうとするのとおなじである.これを「ギャンブル依存症」ならぬ「経費削減依存症」という.

現場責任者たちが「計数管理できない」ぼやき

経費削減依存症に罹患した企業がいう「計数管理」とは,損益計算書の「読み方」のことで,「計数管理できない」とは,損益計算書の読み方がわからない,という意味だ.そして,これを「困ったことだ」という.どうして困っているのかというと,今期見込みや今期予算の達成のための管理ができないから,という.実は,これが一番困ったことで,現場責任者たちにとって,損益計算書は業務上,本当に「必要」なものなのだろうか?といった目線がないのだ.そして,その現場責任者たちが担っている「現場」と「責任の範囲」を質問したくなる.だれでもが,「現場」を指定することはできるが,「責任の範囲」を特定して説明できるひとがいないことがある.つまり,業務範囲が曖昧なのだ.これは,製造業ではありえないことだろう.

業務範囲が曖昧なのに,現場責任者,はどうしているかといえば,隣接する業務の現場責任者たちと話し合いながら業務を遂行している.これは意外にも健全なことで,組織図のように現場は縦割りではないし,お客様の行動にあわせると,組織体を超えなくてはならないこともある.すると,現場責任者たちからすれば,「計数管理」を押しつけてくる会社側の方がおかしい,ということになる.

経費発生のおおもとは,ひとの存在である

そもそも,企業組織はひとから成り立っている.組織の定義は「二人以上」であることからもわかる.ひとり個人事業主なら,組織はない.その個人事業主が,誰かを一人以上雇用すれば,とたんに「組織」になる.ところで,いま,経費をかんがえるとき,もっともシンプルなひとり個人事業主を想定してみよう.彼の事務所が自宅であろうと,彼がそこに「いる」だけで,光熱費が発生するし,通信費も発生するだろう.客先に移動すれば,交通費が発生するし,打ち合わせのためにコーヒーを飲めば,会議費も発生するだろう.つまり,経費が発生するのは,そこにひとがいるからである.

目的合理的か?が問われる

ひとがいれば経費が発生する.では,無人なら経費はかからないかといえば,そうではない.ひとり個人事業主でも経費は発生するのだ.無人の企業をペーパー・カンパニーと呼ぶ.だから,経費をみる目線は,「目的合理的か?」ということだけになる.すると,ひとの行動には「目的」がなければならない.この目的自体も合理的でなければならないから,「目的が合理的か?」と「目的達成の手段が合理的か?」という二つの問題があらわれる.「経費削減依存症」のばあい,「目的達成の手段」ばかりに注目してしまい,その合理性も,また,その目的が合理的か?ということも忘れてしまっているから「依存症」なのである.

ところが,これら二つの問題を一言であらわす言葉がある.

ムリ・ムラ・ムダはないか?

である.これを組織内部のひとの行動から洗い出すことが,結果的に「経費削減」となるのである.だから,現場責任者に問いたいことは,損益計算書の読み方ではなく,現場における「ムリ・ムラ・ムダの発見」なのである.

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