沼津のカレー・ボール

わたしが住んでいる横浜からだと、国道1号線をひたすら行って箱根越えをすれば、三島をとおって沼津に着く。
高速道路を利用しない、この他のルートでは、保土ヶ谷バイパスと交差する国道246号線の「終点」が沼津になる。

誰でもが、沼津といえば「漁港」を連想するのだろうけど、行ったことがない。
魚に興味が薄い、のである。
「ない」わけではない。

神奈川県は海に面しているから、さぞや魚介が豊富かと思いきや、そんな話題はあんまりない。
面しているのは、相模湾だと思いがちだけど、しっかり東京湾だってある。
いまや、相模湾よりも東京湾の方がよほど魚が獲れるのではないか。

人間が考える「きれいな海」と、魚たちが感じる「きれいな海」の定義が違っていて、あわてて「汚す」ことを決めたのは、瀬戸内海のことである。
きれいにしすぎたら、「栄養素が不足」して、魚が住めない海にしたのが人間だった。

日本版の「死海」ができた。

相模湾の汚染は、この逆で、相模ダムと城山ダムが、腐った水を相模川に供給するので、東岸の茅ヶ崎と西岸の平塚では、絶望的な漁獲量になっている。
もちろん、小田原に流れつく、かつての暴れ川、酒匂川にも三保ダムによる丹沢湖ができて、同様に腐った水が供給されている。

それで、小田原も絶望的な漁獲量になったから、「小田原名物 干物」のほとんどが、外国産の魚を加工した商品になっている。
これが、「かまぼこ」にも影響しないはずがない。

伊豆半島の東岸の漁業は、もう伊東しかないのは、人工魚礁をいちはやく導入したことによる。
その反対側は、富士山がそびえる駿河湾で、すそ野が海面下で「深海」にまで達している。

琵琶湖に匹敵する水量をかかえる富士山は、湧水で有名だけど、おそらく海中にも湧水があるにちがいない。
それが、「汽水」となって、魚の好みに合致していた。
沼津や清水、それに焼津が巨大な漁港になった大元に、こうした自然条件があったのだ。

『これから食えなくなる魚』が出版されたのが2013年だった。
「へぇー、まさか?」と思って読んだけど、ずっと速く「現実」になった。

そんなわけで、沼津にわざわざ出かけて、「マグロ」を食べたいとも思わない。
アジとシラスがいいとこで、金目は高価で手がでない。
シラスなら、なんとか江ノ島でも獲れるから、わざわざ感がないのである。

それでも近海物のアジはやっぱり「味」があって美味い。
名前の由来がそのままだけど、これは地元のスーパーで買うのが一番だ。
醤油は御殿場の「二段仕込み」が最適だ。
100均の携帯用醤油を抜いて、旅には入れ替えて持ち歩いている。

ワサビは天城産の入手が簡単だ。
生姜をたっぷりつけてくれるのがうれしい。

今さらだけど、街を分断しているJR在来線の沼津駅を高架橋にするプロジェクトが進んでいる。
新幹線駅を排除して、三島に追いやって以来の産業衰退で、「行政代執行」をやるほどになっている。

沼津駅は、海側の南口と山側の北口の連絡通路が「ない」のである。
なんだか、かつての新潟駅と似ているのである。
だから、急ぎの場合は「入場券」を購入しないといけない。
いかにもJRは、地元に貢献しないばかりか不便を強いるのである。

そのJR沼津駅南口には、改札横にこぢんまりとしたショッピングセンターがあって、肉屋も魚屋も八百屋も入店している。
そして、入口付近に「地元名産」を扱う、沼津港の魚介類専門商社が店を構えている。

ここに、「カレー・ボール」があるのだ。

魚のすり身を加工した逸品で、意外なうまさがある。
他に、つみれ風なのに食感がソフトなものなど、全部で4種類のボールがあって、ぜんぶうまい。
1個90円。

漁港に向かう駅前通り商店街には、「日本一」を標榜する「鶏の唐揚げ」もあるし、この店の「釜飯」は、テイクアウトにして冷めてもうまい。
その先には、クオリティと値段が不一致の天ぷら屋がある。
店の上部がマンションだからできるのか?としか思いつかない。

面白いことに、このカレー・ボールが、地元でどんな評価なのかがわからないのだ。
ネット記事にも、ましてや動画サイトにも「ない」のである。
肝心の販売元のHPにすら、非掲載なのはどういうことなのか?

「謎」なのである。

でも、店先の一番目立つ配置でガラス冷蔵庫のなかにたっぷりあるから、「知る人ぞ知る」であることは確実である。
この地域なら、「黒はんぺん」が有名だけど、ぜんぜん食感がちがう。

カレー・ボールを食べたくて沼津に行く。

魚には違いないけど、こうしたものに価値がある。
美食の国、ベルギーには、「ブイヨン」という街があって、ベルギー人が認めるグルメの中心地となっている。
それで、ヨーロッパ中から食べるためだけにやってくるのだ。

沼津が大都市近郊の、「ブイヨン」になって欲しいのだけど、県庁や市役所、それに商工会が関与したら、台無しになる。

各店が、各店の味を追求すればいいだけなのだ。
知る人ぞ知るをやっていれば、勝手に客が宣伝してくれる。

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