炭酸酩酊

宿泊施設などの競争の戦略をかんがえるとき,「人的サービス」における差別化と「物的特徴(物質的投資)」における差別化の二種類に分類できる.
難易度が高く,簡単に他社がまねできないことから,「王道」ともいえるのは「人的サービス」における差別化である.
しかし,これには「設計」から「実施」までの時間がかかるという難点がある.

そこで,長期的には「人的サービス」における差別化を研究開発する,とさだめながら,短期的には「物的特徴」による差別化を実施することで,時間を稼ぐことが実務的な作戦になる.
ところが,他から購入し,短期的な時間稼ぎであったはずの「物的特徴」なのに,適度に「当たる」という成功から,ほんらいの「人的サービス」における差別化を研究開発する,ことへの情熱が急速に冷めることがあって,そのことが結果的に経営への致命的な打撃となった事例はおおい.

あとからいえば「本末転倒」という,よくある失敗に分類されるだけのことだから,まことに「やりきる」ということの難しさといってもいい.
つまり,経営者の「意志力」という精神面での強弱が,最終的に決定的なちがいになるのである.

理屈でいえば,他から購入できる物的特徴とは,当初の「珍しさ」から,急速に陳腐化がはじまるから,それを踏まえての全体計画における「短期的な時間稼ぎ」であったのに,一瞬の成功にめがくらみ,次ステップの「長期的な開発」を取りやめるのは,まったくの愚挙であることを理解するのはそうむずかしいことではない.

しかし,経営不振がながくつづいたという状況にあって,ちょっとした「成功」が,当事者には「大成功」に見えてしまうのである.
それで,経営が下手なゆえにながく経営不振だった施設では,「やりきる」という経験もすくないから,あっさりと「定石」を無視しても,それがいかに危険なことかがわからない.

その「危険」とは,資金が尽きることである.
「物的特徴」をだすには,投資が不可欠である.物質的なものを購入するしかないからだ.
だから,最終的には資本力できまるので,時間がたてば小資本は大資本にかなわない,ということに落ち着く.

これには,人的資源まで大資本には豊富にあるように見えるから,小資本には勝ち目がないというはなしがでてくる.
ところが,現実はあんがいそうではなく,小資本だからこその小回りで,大資本を翻弄して小気味のよい企業はわんさかとあるから,経営力とはおそろしい.

毎日お昼のテレビで,健康にいいものを日替わりで紹介していた.
それがたとえば「紅茶」であれば,放送後の小売店から紅茶が品切れになったし,「黒砂糖」であれば,「白砂糖」がまったく売れなくなったりもした.
だから,気の利いた小売店の店主は,この番組をかならず観ていたものだった.

不思議なことに,この「機動力」が宿泊業にみられない.
十年一日のごとくやっている従業員も,飽きないのかとおもうほどである.
たとえば「炭酸」.
すでに,街の銭湯をふめた温浴施設も,人工炭酸泉は一般的になってきた.
天然温泉と人工炭酸泉を混ぜた施設も出現している.

理美容の分野でも,炭酸水によるシャンプーなどのヘアケアに応用されて,しっかり単価と人気をさらっている.
もちろん,炭酸水による洗顔すらも,自宅で日常ルーチン化しているひともいるだろう.

これを飲むなら,アルコールとノンアルコールに分類できて,ビールや酎ハイはあっても,「炭酸水」が選択できないのはどうしたことか?
市中の居酒屋でできて宿でできない.
それで,宴会がほしいというのは,どうした了見かとうたがうのだ.

砂糖なし炭酸水を一気に大量に飲むと,炭酸酩酊という現象が起きる.
体内に炭酸ガスが大量に取り入れられて,酸欠になることでの現象だという.
ノンアルコールビールをジョッキで一気に飲んでも,似たように酔った気になる.

温泉宿の経営者は,一度,炭酸酩酊ぐらいは経験してみてもいいだろう.
利用客は,全員が消費者であることを意識できるようになるかもしれない.

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