計画倒産という選択肢

経営者が「もうダメだ」とおもったら、傷が深くならないうちに事業をやめて「倒産する」という手がある。

個人や中小零細企業なら、「自己破産」が選べる。
ただし、自己破産の手続きには、かならず弁護士費用が「150万円」かかるから、手元にこの金額があるうちに「決断」する必要がある。

なんと、破産するにも大枚のおカネがいるのだ。

「金の切れ目が縁の切れ目」とはいうけれど、とにかく150万円が重要な「ライフ・ライン」ともいえる。

もちろん、「民事再生」という手もあるが、経営者として継続できないことになる可能性があるし、会社を再生させるにもどんな「あたらしい作戦」のアイデアが自身にあるのかを自己チェックすべきである。

おおかたのばあい、「あたらしい作戦」のアイデアも「ない」だろうから、そんな自分に気がついて、はやく決心すべきだとおもう。

迷惑をかける相手の数がすくなくて、金額もすくないうちが、迷惑の傷を深めないからである。
どうせ「迷惑をかける」のだから、決断しないでいて結局のところ負債を膨らませる方が迷惑だ。

ちいさい迷惑ならば、再起の道の可能性もずいぶん残る。
わかっていて大きい迷惑をかけたら、再起の道すら険しくなるのは、「信用」という最大の資産のかんがえ方に由来する。

このひとは信用できるか、できないか?
信用できるとなれば、再起はできる。
しかし、信用できないと思われたら、それこそが社会からスピンアウトしてしまう。

「分かれ道」があるのだ。

人生の機微を書いた文豪、サマセット・モームの短編に、『会堂守り』や『蟻とキリギリス』のはなしがある。

『会堂守り』は、ロンドンの伝統ある教会堂に長年勤務した用務員が、あたらしい司教になって文盲を理由に解雇されてしまうことから物語がはじまる。
『蟻とキリギリス』は、イソップのそれとは真逆のはなしに仕立てている。

高校生のときこれらを読んで、そんなもんか、とおもった記憶があるが、そんなもんか、ではすまない機微がある。
こういうはなしを、無駄なく短編であっさりと書けるのが、文豪というものなのだろう。

ヨーロッパの教養人には、伝統的な「リベラルアーツ」を素養としてきた歴史がある。
これには、三学と四科をあわせて「自由七科」がある。
三学としては、文法、修辞学、弁証法(論理学)、四科としては、算術、幾何、天文、音楽だ。

もちろん、言語としては、「ラテン語」という素地がある。
だから三学には、「ラテン語の」が頭につく。
古代ローマ帝国の公用語をいまだに引きずっている、とは誰もいわないのは、われわれが『論語』を読み下す感覚と似ているからだろう。

そして、これら「七科」の上位に位置してまとめるのが、「哲学」であって、そのさらに上位に「神学」がある。
つまり、ピラミッドのように階層構造になっていることが特徴である。
これは、東洋にないので、わが国にもない概念である。
「四書五経」が、階層構造ではないことでわかるだろう。

さて、「経営」ということをかんがえ実行しようとすると、じつは「教養」という要素の重大さに気がつくのである。
あたりまえだが、よくいわれるようになった「ステークホルダー」とは、ぜんぶ「人間」だからである。

辞書によれば、「企業に対して利害関係を持つ人。株主・社員・顧客だけでなく,地域社会までをも含めていう場合が多い。」(大辞林)となっている。
地域社会も含めるのだから、人間をしらない経営はありえないのである。

すると、ふつうに「経営」といったときと、感じがことなる。

売上げや経費、そして利益やら資金繰りと、これらをまとめてどうするか?といった計画をたてて、それをもって金融機関と融資の相談をする。
こうしたことが「経営」だと思いがちなのだが、経営はそんな狭い範囲なのではない。

わが国で資本主義を率先垂範した人物といえば、渋沢栄一である。
ヨーロッパでうまれた資本主義は、ヨーロッパの伝統文化を背景にしていて、それは、ペスト禍による伝統知識の否定をも内在した厚みがある。

渋沢はこれを承知で、『論語と算盤』を書きあらわした。

日本人にリベラルアーツをいきなり求めるわけにはいかないから、『論語』を下敷きにした。
しかして、これが「日本版の資本主義の精神」となったのである。

出典はバラバラだけど、わたしがすきな資本主義の精神をあらわす言葉がある。

利によって行えば怨み多し。(論語、里仁)
義は利の本なり。(春秋左氏伝、昭公)
利は義の和なり。(易経、文言伝)

自己中で私の利益だけを追求すると関係者(ステークホルダー)から怨まれる。
顧客をはじめ関係者に義理を果たす(約束を守る)ことだけが、利益の源泉である。
よって、真の利益とは果たした義理の和になって還ってくるのである。

計画倒産の覚悟の前に、かみしめておきたい。

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