4度差が生死をわける

いわゆるエンジンに「ラジエター」がかならず必要なのは、燃料を燃やしてエネルギーを得るからで、燃やしつづければ熱が上昇してエンジン自体を損傷させてしまうからだ。
だから、冷却装置としてのラジエターがなければならない。

ということは、燃料の発するエネルギーを全部利用できるわけではない、ということがわかる。
残念ながら、かなりのエネルギーが使われずに捨てられている。

いまではタバコ飲みは変人あつかいになりつつあるが、ちょっと前なら「おとなのたしなみ」の最たるものの一つだった。
その中でも、「パイプ」は自分で葉のブレンドもできるから、趣味としての深みがあった。

タバコのうまみは、葉の加工・香料の調合だけでなく煙の温度にも左右されて、当然だが温度が低い煙がマイルドで、温度があがると辛くなる。
だから、「クール・スモーキング」が理想的なのである。

そんなわけで、アメリカの飛行機メーカーがつくる「ラジエター・パイプ」は喫煙具製造技術の最先端でもあったが、日本の「キセル」の木部の長さがラジエターとおなじなのだから、人間がかんがえることに大幅なちがいはない。

生きものは体に熱がこもる。
たとえば、血液が体内を循環するだけでも、血管と血液がこすれて摩擦熱が生じるから、厳密にはそれだけでも熱がでるのである。

陸に上がった動物は、高度に進化した。
その中でも人間は、霊長類としても頂点に君臨する動物である。
一般的に、人間の体温は36度ぐらいで個体差がある。
37度だと「微熱」といわれるが、年齢によっても変化する。

今年は例年よりながい梅雨が明けて、急激に気温が上がった。
梅雨の時期に気温が徐々に上がることがなく、梅雨冷えがひどかったから、からだが熱になれる準備ができていない。
それで、いつもより熱中症がふえている。

熱中症になるメカニズムは、体内に蓄積された熱の放熱ができなくなることが原因といわれている。
つまり、人間のからだにあるラジエターの機能と、気温とのバランスが崩れると発症するのである。

もし、人間のからだが単純な構造なら、体温と気温差が4度以内になると「即死する」はなしになる。
90度をこえるサウナ風呂に入っても「即死しない」のは、人間が複雑な構造だからである。

つまり、外の熱を体内にいったん蓄熱する機能があるから、いきなり焼け死ぬことはない。
しかし、長時間いれば、蓄熱する機能がなくなる。
すなわち、体内深くまで温度が上昇するのだ。
おもに蓄熱する場所は「骨」である。

蓄熱する機能があるのも、機能をうしなうのも、「温度差の有無」が原因であり結果となる。

つまり、「温度差」こそが「熱移動」に必要な条件なのである。

自動車のラジエターでかんがえれば、エンジンの温度とラジエターの水の温度差があるから機能するのであって、もしこの温度差がなくなれば、ラジエターの役割・機能はうしなわれたことになる。

そんなわけで、人間のばあい、必要な温度差は「4度以上」といわれている。
つまり、体温が36度のひとなら、気温32度までが許容範囲なのである。

しかしながら、昨今の日本では、40度を記録することも希ではない地域がある。
すなわち、もはや「危険地帯」が現出しているのだ。

誰でも灼熱の砂漠を連想するアラブ諸国では、50度を超えると学校や役所が「休み」となる。
それで、48度という日がならぶことがあって、発表する政府は恣意的であるという批判がある。

しかし、気温と体温の関係だけが問題にならないのは、湿度もあるし、室外なら風速という条件がある。
湿度が低い砂漠では、体温調整のために分泌させる「汗」が、皮膚表面にでた瞬間に乾いてしまう。

このときの「気化熱」と、木陰における気温差が3度あるから、日中のオアシスで木陰にお茶を飲みながらたたずむひとびとは、数メートル先の直射日光の場所からくらべれば、とてつもなく快適な空間に身を寄せている。

もちろん、こんな昼間に労働にはげむひとがいないのは、怠け者ではなく、命にかかわるからである。

ちなみに、井戸からくんだ水を沸騰させていれる「お茶」は、お腹にもやさしいことはいうまでもない。
このような環境で、氷を口にするのは、要求してないことはない時代になったが、旅人の健康は保障できない。

腕の皮膚をなでると「ざらざら」するのを確認でき、「細かい砂」だと勘違いするものだが、じつは自分の汗からでた「塩」である。
このばあい、すみやかに「塩分摂取」がひつようになるが、できれば粉薬のように塩を口にして、味わうことなく水で飲み込むとよい。
なお、ビタミンC系のものは役に立たない。

けれども、日本のように湿度も高いと汗がふきだして、これに風があるとついつい水だけを補給すればよいとかんじてしまう。
かならず塩も補給したいモノだ。
熱中症の予兆に、塩水が甘く感じることもある。

その目安は、体温と気温の差が4度以内は危険、だとくれぐれも注意したい。
体温-気温=4度 であって、この逆ではない。
春や秋の25度ぐらいが快適にかんじるのは、体温が適度に放熱できるからである。

残暑とはいえない猛暑はつづく。
業務上の熱中症は、労災である。
涼しい休憩場所を確保したいが、できないならばできるだけの対策は使用者の義務である。

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