自動スリッパ

日産が自動駐車システムを応用して,スリッパやテレビ・エアコンのリモコンを「自動」で整列させる技術を開発した.しかし,商品化の予定はない,という.

「もの」でアピールするというのは,お金さえあればだれでもできるので,「競争」のためとしては,あまりお勧めできない.ただし,「コンセプト」から発したものであれば,それは「必然」にかわるから,今度は「なければならない」になる.

下足番

むかしの旅館は,玄関にスリッパが敷きつめてあって,お客は自分の履物をぬいで,適当に選んで履いた.ぬいだ履物は,下足番が奥の下駄箱にしまっていた.
外出しようとすると,下足番が,だまってそのひとの履物をだしてくれた.
どこでどうやって記憶しているか不思議におもうほどの「業」だった.

そういえば,いつのまにかおおくの宿で,そのままお上がりください,と一段上がったきれいな絨毯の上を履き替えずに歩けるようになった.
下足番を廃止したのだと,玄関横をみればその名残があるからわかる.
だから,温泉街だと,あんがい浴衣姿に自分の靴というしまらない格好になるから,わざわざ私服に着替えて散策に出たりする.みんながそうなると,ひなびた風情のあった街が,急にふるぼけた表情になる.

さいきんの花火大会は,浴衣で行くとさまざまな特典が用意されている.カップルともに浴衣だと,さらなる特典があるから,中高年より若者のほうが男女ともに浴衣姿がめだつようになった.
主催者の思惑どおり,浴衣姿がふえると,近代的な都会の花火大会なのに,「情緒」が醸し出されるのは不思議である.

昔のような「下足番」の復活ではなくても,温泉街に浴衣と下駄を履いてでかけてもらうだけで,ずいぶんちがった「観光地」になるだろう.

スリッパの履き心地

上記の自動スリッパを紹介した記事やビデオでは,履き散らかしたスリッパが自動で整列することに注目があつまった.たしかに,つぎに履こうとしたときに履きやすいだろう.
しかし,履き心地,についてのレポートがなかった.

スリッパもそうだが,「最高」を求めてしらべると,いがいなものが見つかる.
検索で簡単にみつける,という方法もあるのだが,デパートにあしを運ぶのも伝統的な方法だろう.町歩きでみかける「専門店」という発見もあるから,「足を使う」ことは,「アンテナ」を高くはるイメージがないと,ただの散歩になってしまう.

デパートや専門店にいく理由は,もうひとつある.
その店の「顧客層」と,自分の「顧客層」を比較できるからだ.
「高級」をめざしているわけでもない「旅館」が,スリッパだけ「高級」で,それが「競争」の役に立つのか?というのは,基本的な問いだろう.すると,「コンセプト」の重要性にはなしが戻る.

人手不足で人件費が高騰するであろうから,必然的に「高級」にして単価をあげないとやっていけない,とかんがえれば,意外性が目立つ「もの」から投資したくなるのだろうが,それだけ?でいいものか.ということは,じっくりかんがえていただくとして,スリッパのはなしだ.

デパートや専門店という実店舗の「顧客層」が,自社の「顧客層」と一致するとなると,もので補えるならはやく補うことが重要になる.この顧客層の生活の標準になってしまっている可能性があるからだ.

そこで,これらのひとが,なぜこの「スリッパ」を選んでいるのか?ということを確認したくなる.単なる「履き心地」なのか?なんなのか?
その「こだわり」の視点で,「旅館」という商品をみていることに注目せねばなるまい.

つまり,旅館にとっての「こだわり」は,お客の生活レベルへの「こだわり」であって,本稿のばあい,スリッパへの「こだわり」ではない.生活レベルから,自動的にみちびかれて選定したのが,このスリッパでしたという結果の表現にすぎない.

これが,スリッパだけに注視してしまうと,お客の生活レベルからの距離感がわからなくなってしまうから,独りよがり,という結果になる可能性が出てくる.それが,「おもてなし依存」ということだ.

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