大学の科学講座

有名難関大学が、一般向けや高校生向けの「科学講座」をやっている。
宇宙論であったり素粒子論であったりと、メニューは豊富にある。
難しいことを易しく説明することの難しさ。

こないだは、「磁石」のはなしに感心した。
原子核の構造説明で、電子雲の拡大傾向を電荷(陽子と電子)の引きつける力でバランスするという図式はたいへんわかりやすかった。
もし、電子雲の拡大傾向がなかったら、原子はいまよりずっと縮小して、われわれは小人どころか目に見えないほどちいさな存在になってしまうという。

つまり、なるべくしてなっている「サイズ」であるということだ。
巨人に変身するなら、電子雲の拡大傾向をさまたげないようにするひつようがあるし、極小化に変身するならこの逆ができないといけないが、そんなことが人工的にできるのか?

それに、電子が回転(スピン)する方向が、上と下の二方向しかないという不思議があって、おなじ方向で回転する独楽同士がはじきあうように、電子もはじきあうが、上と下の方向の電子同士は「おなじ場所でくっつく」という性質が磁石をつくっているはなしは、アニメ化されていた。

こんな講座を無料で受講できるのは、無料で配信しているYouTubeのおかげである。
公共放送の価値が減る、最大の原因だろう。
しかし、いまの公共放送がその番組をネット配信しても、放送の価値が上がるはずがないのはコンテンツの貧弱にある。

巨大な予算を番組づくりにあてているはずなのだが、価値がみえないのは、投入するお金の価値が、アウトプットとして減ってしまうからである。
これを経済学では正確に「不効率」という。

すなわち、公共放送は公共放送という「安泰の立場」からかならずうまれる「不効率」を、公式どおりに実施する機関となった。
経済学の「政府の失敗」におけるすぐれた事例であって、国民にはこれ以外の価値を提供していない。

さて、それで、大学の「科学講座」である。
説明者として登壇するのは、おそらくその学科や研究所のホープだろう。もっといえば、本邦における特定分野の最前線で活躍中の人物であることが想像できる。

なぜなら、そうじて「若い」からで、ノーベル賞をとるようなご老体ではない。
ノーベル賞をとるご老体も、受賞理由は若いときの研究成果なのだから、年齢を云々したいのではない。

つまりは、とびきり優秀なひとが説明者なのだ。
しかしながら、なぜかどのひとも「プレゼン」としてはヘタクソである。
この「ヘタクソ」加減が、観るものをたのしませてくれるのは、そこに人間味を感じるからである。

どんな人間味かというと、どうしたら自分の最先端の研究を「素人」にわかってもらえるのか?という、おそらく初めてにちかい「テーマ」をあたえられて、これに真剣になやんでつくったパワーポイントの「紙芝居」が、手作り感満載であることからもにじみ出ているのだ。

それに、じぶんが中学生や高校生のときに、経験した「わかった」を、聴衆のおおくが「わからなかったかもしれない」という前提にたったとき、どこから説明すればよいのかが見当もつかなくなるという「戸惑い」すら感じとれ、優秀ゆえの「かもしれない地獄」におちて論理が混乱する場面が多々あることである。

この生真面目な説明が、ときに本題から大きくズレて、なんのはなしだったかがわからなくなるのは、聞き手以上に話し手の方なので、うまい「プレゼンテーション」とは、どこかイリュージョンの香りがあるものだとも気づかされる。

大学は研究活動の場でありながら、教育の場でもあって、全体でおおくを占める学部学生にとっては、とうぜんに学びの場であるから、教師の教育力が問われることになる。
すなわち、「伝える力」のことなのだが、研究活動に重心がある研究者にとって、「伝える力」を発揮すべきは論文になるから、どうしてもズレるのである。

そんなわけで、どういう経緯でこうした講座の講師になったのかはわからないけど、指導教授というえらいひとが、説明能力の訓練のために指名しているのかもしれない。
いまや、学会も、プレゼンテーション勝負になっていることだし。

あるひとは、「昨晩眠れないほどだった」というほどの「緊張」を強いられるようだが、じっさいにやればその難しさに震えるほどの恥ずかしさがくわわった経験になろうが、じつはじぶんの不得意分野や先の研究テーマがはっきりみえてくるという効果に驚くはずだ。

観る側は、そんな生真面目な研究者の研究への情熱に拍手したい気になる。
受験のための講座ではない、こうした講座がふえるのは、社会にとっていいことだ。

学生でないお気軽だから気づくことでもある。

娯楽化した公共放送を観る時間を、こうした動画にあてたいものだ。

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