悔しかったらがんばりなさい

英国元首相故マーガレット・サッチャー女史の発言として,いまだに賛否がいりまじっている「名言」である.
とくに,日本では,「冷酷だ」と不評である.

わたしの記憶では,首相就任後数々の政策(アンチ社会主義)を矢継ぎ早に打ち出しているなか,地方都市を訪問したさい,失業に苦しむ若者たちのデモ隊にむかって,「悔しかったら『勉強』しなさい」と言ったイメージがのこっている.「がんばりなさい」ではないのだ.
母親が息子を諭すという感覚と,首相になるまえの彼女の経歴が「教育相」だけだった,というふたつがかさなって記憶しているのだが,「記事」としての証拠がみつからないから不思議だ.

当時のイギリス経済は「英国病」とよばれ,西側先進国の「お荷物」になっていた.もちろん,「優等生」は,不思議と敗戦国の日本と西ドイツだった.
かつての「大英帝国」は,第一次大戦ごろにはすっかり老衰の域にあったから,第二次大戦ではもう瀕死の状態であるにもかかわらず,「チャーチルのはったり」が戦後あたかも影響力を発揮したように見せている.
子分のはずのアメリカから,戦費の借金返済を督促されると,もはやこれまで,というありさまだった.

ふりかえると,衰退がとまらない英国は,第一次大戦後からだんだんと「平等」という意識がたかくなって,「国家が富を配分する」という「本来の社会主義」を追求するようになる.これは,資本主義社会から社会主義社会に「発展する」とした,マルクスたちの「理論」がただしい,というふうにもみえたから,労働党だけでなく保守党も競って「社会主義政策」を打ち出した.
それが,「ゆりかごから墓場まで」といって有名になった.

そんな風潮にがまんできなくなったロンドン大のハイエクが,ヒトラーとの死闘中に書いたのが「隷従への道」(「隷属への道」もある)であった.

  

この本は,アメリカでリーダーズダイジェストの要約記事になって,爆発的に読まれた.もちろん,わが国では「敵国」でのはなしだから,この本の存在を一般人はしらなかった.
「アメリカ人」に大受けしたというリーダーズダイジェストの「隷従への道」を読んでみたいものだが,手にはいらない.

ところで,もう10年も前になるが,エコノミスト誌に「JAPAIN」という特集記事がでたのを覚えておられるだろうか?
「JAPAN」のあいだに「I」をいれて,「痛いニッポン」とした造語である.
当時,民主党の岩國哲人国際局長が,この記事に抗議し,「公式に謝罪を要求」したことも話題になった.英国側は,この抗議を「Joke」と受けとめたという噂もある.

政治家が外国(出版社)に,「公式に謝罪を要求する」という文化は,なにもわが国周辺国から,わが国がいつも言われているということではなさそうだ.
この「抗議」の根拠については,ご興味のある方はお調べになるもよろしいかとおもう.

わたしの興味は,かつて「英国病」と揶揄されたお国を代表する経済誌から,「日本病」と揶揄されてしまったことである.しかも,きっかり10年前だ.
ちなみに,日本ではマイナーだが,欧米ビジネス界では知らないものはいない「パーキンソンの法則」は,1958年に「ロンドン・エコノミスト誌」に発表された.ここでいう,「ロンドン・エコノミスト誌」とは,「JAPAIN」のエコノミスト誌(英字)のことである.

状況はかわったか?
たしかに変わった.10年前より,確実に悪化している.
もはや「JAPAIN」は,一般名詞化しているのではないか?

さいきんの日本の親は子どもに,「勉強しなさい」とはいわないそうだ.むしろ,「言ってはならない」らしい.
本人の「気づき」が大切だという.
「気づいた」ら,だまっていても勉強に励むようになって,難関校に合格できるそうだ.
結構なことである.

どうやったら「気づく」のだろうか?
まさか,それも本人任せなら,一生気づかないでおわってしまうかもしれない.
たしかに,子といえども他人の人生だから,親として子の人生に100%関与できないが,それはふつう「放置」といわないか.

日本はもっと「英国病」に学ぶべきである.
サッチャー女史が逝去したとき,英国でもサッチャー政策の後遺症による「恨み節のデモ」があったと報道された.
しかし,真っ向から対抗するはずの,労働党首でときの首相トニー・ブレア氏は,「サッチャー革命の基盤の上に現在の英国がある」と発言したのは注目であった.
国家負担で「ゆりかごから墓場まで」を追求しているのは,いまは日本だけだ.

やっぱり,「がんばりなさい」ではなく,「悔しかったら勉強しなさい」と言ったとおもう.

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