サミットと二つの弾劾

人類世界は氷河のようにゆっくりだが確実に変化する。
だから、後から振り返れば、ものすごく流動的で、気がつけば、ぜんぜんちがった様相になっているものだ。

「先進国」といういい方は、かつての「列強」の言い換えにすぎないけれど、その列強が世界を支配するという発想が、根本から否定されてきた。
経済における先進国のシェアが低くなって、途上国のそれが上がってきたからである。

もちろん、先進国には「知的財産権」を振り回せるような権利が残っているから、途上国は先進国の工場になっただけ、という見方もできる。
けれども、一方で、途上国の人びとの生活水準の向上(=所得向上)は、そのまま消費財需要の向上となるから、飽和状態になった先進国からしたら、ケタ違いの多数派が途上国になったのである。

それに、国の数と人口で、途上国が先進国を圧倒するから、一国一票の国連方式だと、先進国の意向通りに決まる、という時代ではとっくになくなった。

このことの象徴が、「BRICs」であるし、また、世界最大55カ国が加盟する地域連合の、「アフリカ連合(AU:African Union)」である。

日本のマスコミは、こうした世界の実態を無視するので、日本人の一般はあたかもいまだに「G20」とかが世界を牛耳っていると信じ込まされている。
しかしながら、すでに「G20」は世界の小数派になったのであるし、これがウクライナ支援一辺倒の政治判断にも影響して、世界の大勢はロシア支援になっていることも国民に知らされていない。

なので、この事実をいうと、怒り出すひとがいるのは、ちょっと認知症初期の様相なのである。

さてそれで、もう忘れてしまっている、5月の広島サミットに参加した各国首脳で、立場がゆらぎだしているひとが二・三人もいる。

なかでも、アメリカのバイデン氏は、その息子の犯罪が暴かれて、一家で連座する可能性がでてきた。
共和党が支配する連邦下院のすさまじい追及がとまらないからだ。
それで、とうとう、下院議長が「大統領弾劾」を公式表明したと書いた。

その本意は、来年の大統領選挙に向けた、バイデンと民主党の悪事を国民の目の前に晒す、ことにつきる。
ただし、わたしは、日本有事で大統領選挙をしない、最悪も想定すべきと書いている。

そんななかで、アメリカの支配に屈してきたEUで大問題が発覚し、フォン・デア・ライエンEU委員長が汚職で起訴される可能性がでてきた。

このひとは、メルケル政権がイチオシしていたドイツの政治家ではあるけれど、選挙区で当選した実績は一度もなく(3度落選)、比例復活で当選して、大臣として入閣していた。
まことに、「比例復活」なるインチキは、民主主義の体制を体制内から壊す癌である。

わが国でも、選挙制度を変えたとき、国柄も変わる、という議論が薄く、単なる数あわせにしたのは、マスコミと喜々としてテレビに登場して稼ぎまくったエセ学者による詐欺的犯罪であった。

もちろん、いまも「中世」と変わらない価値観がはびこるばかりなので、欺すより欺される方が悪い、という諺が生きている。
バカをみるのは、国民がバカだからだ。

ドイツ人も日本人と変わらぬバカさ加減で、旧東独出身のメルケルの長期政権が成ったのは、野党が信用おけぬために、選択肢がなかったから、という、わが国の実態と鏡のようにソックリで、さすが元同盟国なのだった。

それでようやく、ドイツには、「AfD:ドイツのための選択肢」ができて、日本には、「参政党」ができた。
これはいま、先進各国でのムーヴメントになっている。

イタリアしかり、オランダしかり、フランスのマクロン政権もゆらいでいるのはこのためだ。

こうした動きの根本には、トランプ氏が提唱した、「自国ファースト」の影響がある。
何度も書くが、これは「個人主義」から生まれたものだ。
「個人主義」は、個人の我が儘をいうのではなくて、自己の「個」を尊重するゆえに、他人の「個」も尊重することをいう思想だ。

これを個から国家へと拡大させた。
自国を優先するとは、他国の言い分も尊重するということになる。

なので、自国の言い分を他国から強制されて抑圧されるのを嫌う。
これは、自由への侵害であって、全体主義につながると強く警告したのが、ハイエクであった。

EUができるはるか前のEEC時代(その前の「欧州石炭鉄鋼共同体設立条約」1951年)から、ヨーロッパ連合は失敗すると断言したハイエクの慧眼は、いまになって現実化しようとしている。

元の思想がまちがっていれば、機構の設計もまちがう。
人間のかんがえたことが現実になるのだ。
「マシュマロマン」は、けっして冗談ではない。

フォン・デア・ライエン氏の罪状がどんなであれ、EUの思想的なまちがいの「具現者」としての立場が、たまたまわかりやすい人物だった、ともいえるし、過去の疑惑における「証拠隠滅」の実績も、ヒラリー・クリントン氏の真似をしたにちがいない。

ヨーロッパの汚職が話題になればなるほど、人びとは、忘れかけていたヒラリー・クリントンの悪事を思い出すようになっている。

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