いまだ「おもてなし」

日本という市場で,間違いなく起きていて,これから数十年間つづく「人口減少」に,「おもてなし」だけで対応しようとする努力は,残念ながらムダな抵抗である.くわえて,政府が推進する「働き方改革」も何をか言わんや,余計なお世話である.

生産性が低いのは単価が低いからである

日本の生産性は,先進七カ国中のビリである.しかし,もっと深刻なのは,人的サービス業の生産性の低さである.これを「おもてなし」で解決しようとするのは,さらなる生産性の低下をまねく.働かせる側も働く側も,ここのところが飲み込めていない.「おもてなし」を強化することとは,すなわち労働強化である.あれもこれもと設定したサービスメニューをこなさなければならない.働かせる側は,このサービスメニューをどんどん増やそうとする.働く側は人数の増員も,訓練もなく,ただひたすらにこなさなければならない.ところが,サービスメニューは増えたが,単価が増えない.だから,提供損である.それでもやめさせないし,やめる気もない.これが競争だと信じているからだ.

生産性の算定式を知っているのか?

おおくの経営者にあらためて質問すると,おおくのひとの口が重くなる.「えっ,計算できるんですか?」と逆質問されたこともある.計算定義を知らずに議論しているのだ.生産性の計算のおおもとに,付加価値がある.「生産性」とは,「付加価値生産性」のことだ.「労働生産性」とも「労働者1人あたりの生産性」とか,いろいろないい方がある.これは,付加価値を労働者の人数で割ったものだからだ.だから,もっとも基本の数字は,「付加価値」である.その付加価値の計算方法は二通りある.「減算法」と「加算法」(日銀方式)だ.理屈のうえでは,どちらも同じ答えになる.

減算法:販売額-原材料-外注費-動力費-運賃-保険料,など

加算法:税引後純利益+支払利息+手形割引料+賃借料+人件費+租税公課

付加価値には人件費が含まれる

加算法ならストレートだが,減算法をよく見ても,人件費が付加価値に含まれるのがわかるだろう.こうして算出された「付加価値」を人数で割れば「生産性」が得られる.生産性は,金額で表示されるのだ.一方で,「付加価値」のなかでの人件費の割合を,「労働分配率」という.労働者への還元率ともいえるだろう.最近,これら「生産性」と「労働分配率」が混同して議論されていないか?とおもうことがある.

問題なのは「単価」である

日本の生産性の低さは,売上そのもに問題があるとおもっている.「売上」とは,単価×数量,のことである.すなわち,単価,が低いままなのだ.デフレだから,ということではない.すでに人手不足が問題になっているが,今後の少子化で,人手不足が改善される見通しはないし,むしろ悪化するはずである.すると,若者の労働単価が上昇するはずだし,採用維持すら困難な地方では地域の労働人口が減少しているから,必然的に人の単価上昇は免れない.いまは,低く抑えられても,この圧力に耐えられなくなるだろう.これは,政府が定める最低賃金の問題ではない.つまり,人件費における単価上昇に,販売での単価上昇をマッチさせなければならないのだ.

高単価商品には高度人材という原則

人的サービス業,なかでも飲食業や宿泊業といった「低生産性」の業種にも,以上の圧力はかかるから,対処方法を早急に検討しなければならないが,一部を除いてその動きは遅いようだ.都内の大手ホテルでは,パート・アルバイト,契約社員の正社員化がはじまった.つまり,従来のパート・アルバイトも正社員になるし,今後は正社員しか採用しない,ということだ.ロボットなどのIT,あるいはAI技術での店舗開発も今後はふつうになるだろう.すると,地方だからという理由だけで,これらの流れから逃れることはできないし,むしろ,近隣に労働者がいない地方こそ,積極的に取り組まなければならなくなる.

資本がない現実

疲弊した地方の宿泊業の大問題は,資本がない,ことだ.上記の対応策には資本が必要だが,それがない.つまり,資本主義の原則にもどって,資本調達をしなければならないということになる.すなわち,「ちゃんとした経営計画」が求められるているのだ.幸い,金融機関も安泰ではない現在,地元金融機関からの人材も含め,戦略的な採用をすることでの経営強化が,生き残りの必要条件になるだろう.そして,いかなる人的サービスと非人的サービスを組み合わせるかが,生き残りの十分条件として機能するのではないか?少なくても,従来のやり方での延長で,今後の人口減少社会を生き残ることはできないといえる.もはや「おもてなし」どころではないのである.

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