オオカミ少年ではないけれど

『イソップ物語』というのは、ヘロトドスの『歴史』にも登場する。
紀元前6世紀に、「奴隷」ではあったが、アイソーポスという物語(寓話)の名人がいて、その物語を記録したとある。
いまに伝わるイソップ物語が、ぜんぶアイソーポスが話したものではないというが、はっきりとした全貌はわかっていない。

アラビアンナイト『千夜一夜物語』では、物語のなかで物語を語る「シェヘラザード」が登場する。
彼女はどうして、かくも膨大な物語を語れたのか?をかんがえると、千夜では足りなくなりそうだ。

「奴隷」が主人よりも優秀で、愚鈍な主人の危機を機転やトンチでたすけだす話は、外国にはたくさんある。
戦争によって敗北すれば、異民族の王族すら「奴隷」になったから、あんがいふつうに起こりうる物語である。

古代エジプトを舞台にした名作『アイーダ』も、エチオピアとエジプトとの戦役をベースにして物語が展開する。
アイーダは敗北したエチオピアの王女であって、世界に君臨するエジプト王女の侍女になった。

島国のわが国には、キリシタンによって伝わっている。

そんなわけで、「オオカミ少年」の話は、うそをいう子どもの話として有名だ。
子どもは純真だからうそなどつかない、といううそをいうおとながいるけど、あんがいずる賢いのが子どもである。

ヒマにかこつけて、「オオカミが来た」とさけんでみたら、まわりのおとなたちが右往左往するのが面白い。それで味をしめて、なんどかやるうちに、本物のオオカミが来た、というおはなしだ。
村の羊がぜんぶ食べられたというから、この少年の運命もどうなったことか?は書いていない。

くるぞ、くるぞ、「不況がくるぞ」。

バブル景気以前をしっているおとなには、バブル景気後のこの30年で、いつ景気がよかったのかさえもピンと来ない。
なんだかずいぶん前の「いざなぎ景気をこえた」という長い景気拡大期が、平成時代にもあっというが実感がない。

本物の景気がいいときは、街全体が浮かれていた。
だから、平成生まれのひとたちは、景気がいいときをしらない。
これが幸福なのか不幸なのかはわからないけど、安易に「浮かれない」ことはいいことかもしれない。

ふつうに生活していると、「大ニュース」もふつうにやってくる。
新聞の大見出しだろうが、小見出しだろうが、あるいはネット配信のニュースだって、どれもこれも「おなじようにやってくる」から、どれがほんとうの「大ニュース」なのかに気づくのに時間がかかる。

おなじネットでも、動画のほうではずいぶん前から「ある特定大企業」がとりざたされていて、その企業の「倒産の危機」がまことしやかにかたられている。

しかし、つい先日、ブルームバーグという、その筋では信用できる市場情報専門の報道会社が、その「ある特定大企業」のオーナー経営者が、アメリカにあるグループ会社に日本円で「約1兆円」の支援をした旨のニュースがあった。

支援対象の会社の事業とは、かんたんにいえば「かっこいい共用オフィスの貸出事業」をしている「だけ」だ。
これまで、市場ではこの会社の価値が「数兆円」にもなったことがあった。

どうしてそんな高額な価値があるのか?
ある意味、だれにもわからないけど、「あった」ことは事実である。
すると、なにか計算方法がまちがっていないか?ということになってから、下がりっぱなし、という状況になっているのは、まるで『裸の王様』状態だ。

日本における事業は手堅く、一代でわが国有数の企業グループをつくりあげた英雄でもあるそのひとが、どうしてこんな「追い銭」を拠出するのか?
投資家の鉄則「サンクコストは忘れろ」がやぶられているようにみえる。

あまりにも、これまでの出資が大きくかつ、外国人の富豪をふくめた投資家にも参加させた経緯があるからだともいう「うわさ」がたっている。
じっさいに、「国王」クラスが出資したこともニュースになったことがある。

当然だが、国内では「超」がつく優良企業として、メガバンクからの融資もたくさんうけている。
金融庁だって、「OK」をだした証拠である。
そうでなければ、こうも巨額な融資の実行に日本の金融機関は自社決済ができないからだ。

構造は、「ズブズブ」になっている。
もし、この巨額「追い銭」が紙くずになったら、グループの崩壊どころか、わが国メガバンクの崩壊にもなりかねない。

あぶない金額では、はるかドイツ銀行にかなわないが、「持ちこたえられるのか?」という点では、わが国のこの「ある特定大企業」は、時限爆弾化している。

念のため、預金保険機構が保証してくれるように預金額を調整するとかしておいたほうがいい。
もっとも、爆発すれば焼け石に水だけど。

オリンピックのマラソンや競歩を、北海道でやるというニュースだってかすむ。

だって、オリンピックの開催など、できるはずがないほどのショックがおきるだろうから。

オオカミ少年ではないけれど、うそみたいに軟弱な経済地盤のうえに、われわれは立っていることだけは、どうやら事実なのである。

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