マゼラン出航500年

ポルトガルで本名は、フェルナン・デ・マガリャイスと伝わるが、スペインに移ってスペイン語型になり、それをラテン語型にして「マゼラン」となるひとのはなしである。

今日、8月10日は、1519年、マゼランがスペインのセビリアを出航し、世界一周航海に出発してから500年の記念となる日だ。

また「ツヴァイク」に頼ってしまう。
『マゼラン』が出版されたのが1938年(昭和13年)だ。
この年の「こどもの日」に、国家総動員法が施行されているが、「こどもの日」が定められたのは1948年の祝日法なので、最初のこどもの日は1949年の5月5日となる。

おなじ年、アメリカではチェスター・バーナードによって歴史的名著『経営者の役割』が出版された。

バーナード理論を研究する「日本バーナード協会」があるくらい有名なのだが、81年経ったいまも、日本の経営者に『経営者の役割』をはたしているひとが少数派なのはどうしたことか?

ヨーロッパでは小国のポルトガルは、スペインに飲み込まれたりといろいろ苦労した国ではあるが、イベリア半島のはじっこで地中海に面して「いない」ことが絶望だったのである。
なぜなら、当時の「海洋」とは古代から地中海のことであったからだ。

地球がまるい球体であることだって、当時はだれも信じてやいない。
プトレマイオスとローマ教会とが、海の果ては滝のように落ちているときめていたからである。

ところが、「膨張」するという人間の性で、その海の果てを見てみようというひとたちがあらわれたのは、「胡椒」への強烈な欲望からである。
ヨーロッパにインドの胡椒が伝播したのは、紀元前のギリシャに記録があるものの、アラビア人の隊商とオスマン帝国によって「安全」にヨーロッパへ運ばれた。

このときの「安全」だって、いまの「安全」とはまったくちがう。
当時のちょっと前の「危険」が、それでも「安全」になったという意味だ。
旅の途中の掠奪はあたりまえだし、各地の有力者がこぞって「通行税」をまきあげたから、陸路でやってくる胡椒はいちじるしく高価になる。

けれども、胡椒があるとないとでははなしがちがう。
胡椒がない料理と食事をおもえば、せいぜい塩味だけの肉料理を想像するだけで、焼こうが煮ようが、「うまい」というはずがない。

つまり、人類は、というよりヨーロッパ人たちは、アフリカから発生した人類の歴史で、万年単位と千年単位をかさねて、いまのわれわれが「中世」とよぶ時代に、はじめて胡椒の味をしったのだ。
それが、どんなに衝撃的なことだったのか?おおいに想像できる。

これまでとかわらない食材に胡椒をふる「だけ」で、激変してしまう。
そして、いちどおぼえたら、麻薬以上になければならない物資になったのは、必然ということばすらゆるく感じる。

陸がつながっているなら、海もつながっているはずだ。
いまさらながらに、当時の気分になれば、ほとんど根拠のない世迷い言である。
プトレマイオスの地図という不変の常識があれば、いまようの科学的な、あるいは論理的な思考とはまったくいえない。

だから、「冒険」となった。
この冒険を可能にしたのは、陸路でくる胡椒の需要がとうぜんに供給をはるかにうわまっているから、「もしも」「ほんとうに」海路で胡椒がはこべれば、莫大な富を得ることができるという「賭け」、すなわち「リスク」をとる投資家があらわれたからである。

しかも、ひとりの権力者だけの投資から、複数のひとが資金を提供すれば、そのぶんリスクは分散させられる。
地中海貿易を独占していたベネチア商人の複式簿記の知恵が応用される。
『ベニスの商人』のことだ。

じつは、「リスク」こそが、「利益の源泉」なのである。
すべての商売は、リスクを内包している。
町の食堂だっておなじで、お客さんが食あたりになるリスクがある。
このリスク分を利益のなかに取りこんでいるのだ。

さらにわかりやすくいえば、もしものばあいの「保険」をかけるというのも、保険料という料金を利益をけずって負担している。

いつのまにか「リスクは避けるもの」になってしまった日本企業は、本来の「経営者」が不在になって、だれでも経営者になれてしまう。
利益の源泉を「避けるもの」にしてしまうのだから、儲からないのは当然だ。

ローマ教会に忠誠を誓うスペインとポルトガルに、法王は新発見の土地における統治権を独占的にあたえた。両国は、十字軍だったのだ。
他国はこれを傍観するしかなかった。

そして、ポルトガルはときにアフリカ全土を手にし、さらに東のインドにむかう。
コロンブスは西に地球をまわって新大陸をインドだと信じていたが、その報にさっそく西へ艦隊をだしてブラジルを得る。

しかしながら、ポルトガルは小さすぎ(当時の人口150万人)て、アフリカ全土、インド、ブラジルを統治するひとの数がない。
こうして、欲望が強くありすぎたけれど、なんと国力を消耗しつくしてしまうのだ。

マゼランの出航には、どんな意図があったのか?
お盆休みに涼みながらの読書はいかが。

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