健康の定義をする医学

経営コンサルタントという職業は,法人企業にたいする「健康診断」をしたり,その結果をうけて「治療方針」をきめて,じっさいに「治療」をおこなうものだ.
だから、おおきい目でみれば,とても医師のやりかたに似ている.
それで,国家資格の経営コンサルタントを,「中小企業診断士」と呼んでいる.

いったん医師の世界をみてみると,経営コンサルタントのスタンスのちがいもみえてくるだろうから,しばらく医学系のはなしをする.

まず,なにをもっても,近代医療は,「西洋医学」を基礎にしていることはちがいがない.
最先端の研究をきけば,素人でも難病が克服されるのではないかと期待する.
そこで,さいしょに,「西洋医学」とはなにか?をかんがえると,それは、「病気を定義する医学」といえそうだ.

もちろん,西洋医学にも「臨床医学」という分野があって,誤解をおそれずにいえば,病気の原因特定よりも,「経験的に治るならその方法をつかって治す」ことを優先させる.しかし,主流は,なんといっても病気の原因追及であって,それから治療方法が決まる,というかんがえかただ.
この両者の立場が激突した典型的事例は,「かっけ(脚気)」治療にみられた.
詳しくは,吉村昭「白い航跡」(講談社文庫)をお読みいただきたい.

 

一般に「病気の定義」には,「数値」が用いられる.
例えば,血圧の上下の数値や,酒飲みがまず気にする肝機能の「γGTP」,血糖値や脂質の割合など,「基準」となる「数値」がきめられているのが特徴である.
そして,この「基準の数値」の下なら,「異常なし」であって,上なら「病気」と診断される.

ここで注目したいのは,「異常なし」という「診断」である.
つまり,かなり基準点に近くても,優良な水準での数値でも,おなじ「異常なし」となるから,危険水域のひとには「気をつけましょうね」で,放置されるという難点があるのだ.「異常なし」なら,治療は開始されないということだ.

それで,時間が経過すると,危険水域だったたいがいのひとは,みごとに治療を要する「病気」になるのだ.
これでいいのか?という問題が指摘されてずいぶんたつ.しかし,西洋医学の本流は,「定義」にこだわるのは当然だし,医療保険の国家負担をおそれる側は,われ関せずをつらぬいている.

これの対極にあるのが,東洋医学を代表とする「伝統医学」である.
われわれが「漢方」とよぶ,中国につたわる「中医」では,むしろ「健康」を定義するから,健康でない状態がみられたら,すぐに治療が開始される.
これは,「病気にさせない」というかんがえかたなので,いいかえれば「予防医学」ということになる.

この両者をみると,得意分野と不得意分野がみえてくる.
西洋医学は,圧倒的に外科的で,「急性疾患」の対応にめっぽう強い.脳や心臓などの発作をともなうような病気や,外傷の対応における「薬」も効く.
一方,東洋医学は,内科的で,「慢性疾患」に対応しているとかんがえられる.

かんたんにいえば,西洋医学では高血圧にたいして降圧剤という薬は効くが,高血圧という病気は治していない.薬の内服を中止すれば,また血圧は上昇するだろう.これは,がんをはじめとした糖尿病や高脂血症などの,慢性疾患を治せない,ということを意味する.
だから、むしろそのような病気にさせない,という立場の東洋医学が,「予防」という観点からはたいへん重要な役割があることがわかる.

さて,コンサルタントとしての方法論も,「西洋医学」的なものと,「東洋医学」的なものとがある.
やはり,「数値」を重視する傾向が強いコンサルタントが主流なのであろうが,かなりの「外科的処置」をとるのも重要なポイントだ.

一方で,これはわたしのスタンスでもあるのだが,東洋医学的な「予防」が,なによりも重要だとかんがえている.
会社の理想像から演繹して,それにどうやって近づけるのか?ズレているところはないか?
このときの「理想像」に,数値は不可欠だが,それよりも「社風」や「従業員満足度」のほうを重視する.

企業経営の場合,どんな会社にしたいのか?(健康な状態の定義)
なくしては,なにもできない.

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