旅行業法緩和はいかされているか

ことしの1月,改正旅行業法が施行された.
趣旨は,地域に限定した知識のみで取得可能な地域限定の旅行業務取扱管理者の資格制度の創設と,1名の旅行業務取扱管理者による複数営業所兼務の解禁,である.

これまでは,国内および海外旅行の手配業務ができた,「総合旅行業務取扱管理者」と,国内のみの,「国内旅行業務取扱管理者」の二種類の資格があったが,これに,「地域限定旅行業務取扱管理者」を新設して,資格取得の試験範囲も緩和して宿がある地域限定のツアーができるようになった.
さらに,兼務が可能になったから,観光地としてカバーできる.

「宿の旅行業務」は,国によっては高級ホテルでオリジナルツアーがあったり,宿泊客の要望に応じてホテルが直接旅行を手配したりと,柔軟な対応が可能なばあいがあるが,当然,わが国では「柔軟」ではなかった.
今回の「改正」は,その意味で外国をキャッチアップしたものともいえる.

だから,そういった国からの訪日客対応はもちろんのことである.
これらの人びとからすると,日本での旅行を日本に来てから宿で申し込むのが困難であったろうから,自然に,「不便」と評価されていたろう.

また,地方の観光地にある宿では,「ホタルツアー」や「星空ツアー」と称して,自前のバスをつかって当概地を案内する,ということが「法的に」できなかった.
こうしたことは,「旅行」になるからだ.じっさい,「ツアー」につかった送迎用の自家用バスで不幸にも事故が発生して,保険が適用されなかった例があると記憶している.「送迎」という状況ではなかった,と判断されたのだ.

だから,今回の改正でのつかい勝手緩和は,宿には朗報のはずである.
しかし,積極的に新制度を利用しようという宿を聞かない.
なぜだろうか?
第一に,人手不足があげられる.
第二に,面倒なのだろう.
第三は,収益増が具体的に見込めないから.

じつは,宿泊業は旅行業にタッチしない,という業界不文律がなんとなく生きているのではないかとうたがう.
これは,お客様目線での発想ではない,業界の習慣だった.

法改正の根拠に,観光庁観光産業課の資料では,
1.地域体験・交流型旅行商品に対するニーズの高まり。
2.ホテル・旅館等が自ら旅行商品を企画・販売したいとの要望。
と書いてある.
主語が具体的にだれなのかが気になる.

ところで,同時に通訳案内士法も改正されている.
こちらは、有償でサービス提供ができる唯一の資格だった「通訳案内士」の独占がなくなったことが一番の変化だ.
つまり,無資格者でも有償でサービス提供ができる,ということになった.

背景は,外国人観光客の増大というが,おそらく東京オリンピックのボランティアガイドを合法化するためではなかろうか?
じっさい,従来の資格試験が難しく,英語以外の言語の通訳不足が原因であるとの指摘もあるそうだ.ならば,「級」を設けるのかと思いきや,こちらはずいぶん思い切った印象である.

そんな難しい試験を突破した従来の資格保持者は怒らないのか?
日本は本音と建て前の二重社会であるが,この資格も有名無実化していた.
無資格者の営業を排除する取締が,ほとんどされず,「ヤミ」が横行していたからである.

しかし,今回の改正は,従来資格保持者にとって有利な展開になるかもしれない.
名称を引き継ぐ「全国通訳案内士」という呼称が唯一の独占になるが,「プロに依頼したい」ということになると,この呼称に行きつくことになるからだ.

「進んでいる」はずの海外事例をみるには,アマゾンプライム・ビデオ「ペテン観光都市」が紹介するさまざまな手口が参考になる.

日本は遅れていて安心安全.
しかし,これは言語の壁で相手をだますほどの語学力がないことが大きな原因ではないか?
国内の募集団体ツアーで行く観光なら,ちゃんとしたガイドの説明をきくことができるが,個人旅行だとどこにどうやって申し込めばいいのかもわからない.

観光庁がすすめている「通訳案内士登録情報検索サービス」は,閲覧対象者が事業者に定められていて,これには「個人」がない.
日本観光通訳協会のHPには,一般人がつかえる通訳ガイド検索システムがある.
これをみると,もっと,日本人のための観光ガイド,という案内があっていいとおもう.
良質な情報には報酬がともなう,のをよしとすべきだが,つかい勝手にかんする事前情報もほしい.

もしかしたら,宝のもちぐされをしているのかもしれない.

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