ふつうの電卓考・再び

もう3年も前に「ふつうの電卓考」を書いた。
そのとき心配した、いまでは貴重な「置数式コンパクト電卓」がいかれてしまった。

代替機は存在しない。

これは、この機種のユーザーからしたらあきらかな「劣化」である。
メーカーを怨むより、売らなくなったのは皆が買わなかったからだと、べつの恨み節をいいたくなる。
もっと変態な、「逆ポーランド式」がまだ買えるのは、変態電卓好きのおおくのひとがいるからだ。

「数式どおり」という関数電卓や、そのスマホアプリもでてきたので、ちょっと複雑にカッコがある計算だと、そのままスマホに式を入力してしまえば、だまって正解をだしてくれる。
確かに、これはこれで「便利」だけれど、それでは「能がない」とおもってしまう。

せっかくだから、ふつうの電卓の機能を駆使して計算したい。
結果が不安だったら、スマホで確認すればよい。
わたしには、「逆ポーランド式」の方が手間がない。
これも、スマホのアプリになっているけれど。

さてそれで、ふつうの電卓を買うのにどうしよう?ということになった。
前に書いたのは、「√(ルートキー)」の有無だった。
今回は、「クリアキー」と「ゼロ」の位置関係が見た目の問題で、もうひとつが「定数(じょうすう)計算」のための「キー」の押し方がテーマである。

わが国の二大メーカーといえば、カシオとシャープだ。
じっさいに、知り合いの会計士たちもこの二社について、それぞれのこだわりで選んでいる。
だから、カシオ派とシャープ派にかならずわかれる。

カシオ派は、数学的厳密性を根拠としていて、シャープ派は利便性を根拠としている。
なので、いったんカシオ派、シャープ派になると、ほぼ一生、これを変えることはない。

電卓を常用するプロは、一定数いるし、新規の合格者(税理士や会計士)もいて、市場規模は確保されている。
なので、メーカーは、こういったターゲットに「選ばれる電卓」をつくらないと、たちまち衰退してしまう。

それに、電卓というのは電池交換以外で、蓋を開けることはない。
それも、太陽電池が常識化したから、電池交換もいらなくなった。
関数電卓だと、パソコンにつなげてシステムの更新ができるものがあるけど、ふつうの電卓にはこれがないのが「ふつう」だ。

つまり、もし計算プログラムに「バグ」があると、いきなり欠陥商品になるリスクがある。
パソコンや関数電卓のように、パッチ・プログラムをユーザーに配布して修正する手当ができないのだ。

だから、いったん発売された電卓は、なかなかモデルチェンジをしない。
その「完成度」が、プロたちからの「信頼」と同義なのである。
逆に、発売まえに、どんな計算の試験が社内でおこなわれるのか?

プロの卵たちは、資格者養成校の指導もあって、まず「電卓選定」というプロセスをかならず通過する。
学校側は、講義の円滑なる遂行のために、メーカーばかりか機種を指定する。

ここで、本人の一生涯に影響する「派」が育まれるのである。

「ふつうの電卓」の使い方を、ちゃんと説明書をみて確認するひとはすくない。
けれども、あんがい「奥深い」計算ができるのである。
もちろん、養成校ではこれを習得させるのに機種を統一するのだ。

いまの時代に、中学校で「ふつうの電卓」を採用して、操作方法と計算の妙をおしえないのはどういうことか?とおもうのだ。
「へぇー、べんり~」という応用をみせてから、定理や証明をおしえることが、よほど教育的である。

小学生にパソコンを配布するのは、ただの「利権」だろう。
給食にパンをだしたのはアメリカ農民の利権だったし、米に転換したのは、コメ消費のための農協利権だった。
そしたら、コロナでパソコン生産が間に合わなくて、全国一律の小学生向けパソコン配布ができなくなった。

高校生になったら、関数電卓やグラフ電卓をつかわせるのが、より理解を深めさせる「道具」であるのに普及しない。
予算が少ないと利権もないから採用されず、教師も教え方をしらないから、ここで「利害が一致」するのである。

さて、カシオか?シャープか?
結論は、「慣れ」と「好み」である。
こんな選択肢があることの幸せが、資本主義にはある。
役人の好みだけで生産規制がされたら、一生選べない。

まず、「キー配列」の見た目と遣い勝手ということでいえば、シャープに分がある。
「クリアキー」が、右上に配置されているのは、パソコンのキーボードの「デリートキー」、「バックスペースキー」位置とおなじだ。

カシオのは、「ゼロキー」の近くに配置されているので、ミスタッチで計算過程がおじゃんになる。
そして、その「ゼロキー」の位置が、整然としているのがシャープなのだ。

この時点で、シャープ派が形成される。
ただし、ブラインド・タッチを習得すると、特に右手にペンをもったまま左手で電卓を操作する技を得たばあい、人間工学的にカシオの配置が理想だというから、一概にいえない。

つぎが、「定数計算」で、決まった数の繰返し計算をするときに便利な機能だ。
シャープは「=キー」、カシオは「計算命令キー:+、-、×、÷ のそれぞれ」で、計算を繰り返したいときその回数を押せばいい。

ここで、カシオが有利にかわる。
計算させる感覚的にカシオは合致するし、数学的にも合致する。
もちろん、シャープが計算を間違える、ということではない。
「数式」としてのかんがえ方のちがいである。

理論的に几帳面なひとは、カシオ一択で譲れない根拠になる。

一般ユーザーからしたら、そんな厳密さはいらない、と思いがちではあるけれど、「定数計算」の便利さに慣れてくると、やっぱり「=キー」に違和感がでてくるかもしれない。

さて、「名機」と誉れがたかいライバル両社のどちらを選ぶべきか?
それとも、100均?
いやいや、ほんのちょっとでも「業務用」なら、100均はない。
おそらく、わたしの残りの人生時間をかんがえれば、今回が最後の選択になるのである。

さほどに長持ちするのが、プロ仕様だから、使用予定年数で割れば、高い買いものではない。
それでも、カシオはシャープの二倍のお値段。
フラフラっと、シャープかな?

 

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