あの散弾銃の疑問点

銃器はあんがいと単純な機構からできている。

「国宝松本城天守閣」にある、火縄銃のコレクションとその展示は、わかりやすくて参考になるけれど、「部品」からぜんぶが「手作り」という時代を思い出せば、その「精密さ」に舌を巻くしかない。

ずいぶん前から、ひとが携行できる「銃器の機構」は、「完成した技術」だという評価があって、なかなか「新型銃」が新発売されることもない。
とくに「撃発機構」の、「機関部」についての「新型」がないのである。

基本的に、ひとが携行できる銃器の構造は、誤解をおそれずに単純化していえば、撃発機構としての「機関部」、銃弾を誘導する「銃身」、それと射手である人間の体型にあわせた「グリップ・銃床」とに大別できる。

銃身は、「長さ」と「口径」があって、「口径」は銃弾のサイズにあわせてつくるし、またその逆もある。
当然だが、「口径」が大きくなれば、機関部もそれに準じた強度を要するのは、火薬量も増加させることになるから威力が増すのである。

銃身の長さは、短いと照準をあわせるのが困難になって、発射した銃弾が撃発のショックで銃がぶれたら、それこそ鉄砲玉のごとくにどこに飛ぶかわからない。

かといって、長ければ携行のじゃまになる。

その「適度な」長さは、標的との想定距離によっても異なるのである。
オリンピックなどでの「ピストル競技」の射手(選手)が、日本人では警察官に限られるのは、一般人が所持できないからでもある。

さらに、ライフル(銃身の内側にらせん状の溝(「ライフリング」という)は、銃弾に回転を与えることで「弾道」に安定をあたえるように工夫したもので、その加工には高度な技術を要する。

ライフルは、「バイアスロン」を代表種目として、自衛官が専ら選手になっている。
ライフルの所持には、10年以上連続の散弾銃所持実績があって、無事故かつ、「狩猟目的」でないと一般人には許可がでないからだ。

「グリップ・銃床」でのグリップは、利き手にあわせた形状で握りやすいだけでなく、引き金の引きやすさを、たとえおおざっぱでもいまでいう人間工学的に作られている。

銃床は、肩に銃を当てて構えを安定させる部分だけれど、猟銃やライフル銃などは、「銃床を頬にあて」て構えるために、射手の顔の骨格が射撃精度にも影響する。

「和弓」も、「矢を頬につけ」るから、我が国が世界最大の銃所有国だったのは、「伝統」にかなっていたからだろう。
なので、散弾銃でも一発目を「初矢」、二発目を「二の矢」と呼ぶ。

頬を付けるのは銃の先端にある「照星」と「利き目」を一直線にあわせるためで、銃床も右撃ちと左撃ち用とでわずかにカーブして真っ直ぐに見えるように作られているから、これも人間工学的な要素を含んでいる。
右撃ちの人が左用の銃をつかったら、ほぼ当たらない。

なので、「グリップ・銃床」は、オーダーメイドでの発注(体形の諸元を計測する)もふつうにあって、専門の職人が仕上げるのである。
この意味で、一流アスリートが用いる銃は、市販銃に見えてもオーダーメイド品だ。

さて、銃があれば撃てるというものではなくて、弾の形状が銃腔・銃口と一致していないとそもそも「弾込め」もできないのが、いまの「薬莢」方式だ。
この点は、火縄銃もおなじで、銃身内のサイズ(腔・口径)と弾のサイズの一致が不可欠なのである。

なぜならば、わずかな火薬の爆発力で、大きな殺傷力を得るには、撃発機構での「気密性で得た圧力」が銃身内でも保持されてこそ、弾丸を高速で発射するエネルギーになるからである。

なお、火縄銃が「先込め式」というのは、銃身の先からさいしょに適量の火薬をつめて、これに木の棒(静電気が起きない)で突いて固めてから弾を込める方式だったからである。
火薬を固めて弾と一体化(カートリッジ)させたのが、薬莢式である。

火薬を固めるのは、一気に燃焼させるためで、ゆるゆると燃えたら花火にもならないのである。

火縄銃と現代の標準になった薬莢式とのちがいは、どうやって火薬に着火させるのか?「だけ」といってよい。
火縄銃は、安全装置である「火蓋」を開けて、引き金を引いたら火縄の火が火蓋の中の火薬に着火するものだ。

それで、戦闘開始のことを「火蓋を切る」というようになった。

薬莢式は、引き金を引いたら強力バネが「撃針」を飛び出させて、撃発機構内にセットされた薬莢の「雷管」を叩いてこれを発火させることで、その先の火薬を燃焼させるものだ。

何れにせよ、完成された技術とはいえ、その精度(気密性)と強度がセットになっていないと、射手の安全すら危険になるのである。
いまでも「銃身破裂」などの事故での怪我はあるし、一歩まちがえると射手の命すら危ういのだ。

さてそれで、安倍氏を襲ったあの散弾銃の疑問点だ。

・映像でみるかぎり銃身が短い(20センチ程度?)
 ⇒ 腰位置での発砲で照準をいかにあわせるのか?
 ⇒ 6粒の散弾が、まっすぐに飛ぶのか?
 ⇒ 100m先の壁にあったのは本当に今回の弾痕か?
    (そんなに飛距離と威力があるのか?)

・撃発機構が電池式フィラメントとは、じっしつ火縄銃だったのか?
 ⇒ 「先込め式」の「二連銃」なのか?
 ⇒ 何粒発射されたのか?
 ⇒ 機構上「使い捨て」銃ではないのか?
 ⇒ 「先込め式」で「6粒」なら、その6粒はどうやって銃身内で保持したのか?
 ⇒ 火薬量は何グラムで、種類はなにか?

・口径はいくつなのか?
 ⇒ ネットで空薬莢を購入した、は本当か?
   確かに空薬莢は簡単に手に入るが、「雷管付き」は無理ではないか?
   (使用済みしか販売されていない)
 ⇒ 市販の鉄パイプで薬莢規格(気密性保持)に合致する口径はない。
   市販の鉄パイプで、撃発の圧力に耐え、ひとを殺傷するに耐える銃身になるものがあるのか?

・弾道分析がないのはなぜか?
 ⇒ 容疑者の立ち位置と「標的」との、三次元分析がない。
 ⇒ どういう弾道で「当たった」のか?
 ⇒ どういう弾道で「はずれた」のか?

以上からも、不可思議がたくさんあるのである。