「مصر تستطيع(できるエジプト)」

日本の教育制度が、「歩くコーラン」をつくる、という評判は、もう10年ほども前になる、サウジアラビアの国営テレビ番組『خواطر:ハワーテル(改善)』が火付け役になった。

この番組での、日本人からみたら過激な日本絶賛ぶりは、日本テレビ系列(日本テレビは「CIA系列」)の『世界まる見え!テレビ特捜部』でも何度か放送されている。
なので、サウジアラビア国営テレビが当時、「CIA系列」だったかどうかはしらないが、妙に連携していたことは確かである。

その中でのひとつの紹介エピソードに、日本人の「清潔感」が特集されて、なぜに街にゴミがないのか?を追及レポートしていた。
その結果、たどり着いたのが、小学校における授業後の「教室や廊下の清掃」であった。

これを、当時の教育大臣(1万人いる中の「王子」のひとり)に報告したら、大臣が直接学校を訪問して、その実態に共感し、全国の学校に広まったという経緯がある。

なので本稿冒頭の、「歩くコーラン」とは、イスラム教スンニ派を主宰するサウド王家からの、お墨付きでもある。

じっさいに『コーラン』を読破したことのある日本人はどれほどなのか?見当もつかないけれど、仏教徒なのに『仏典』を読んだことのある日本人がどれほどなのか?も怪しい。
人気の、『般若心経』も、その内容の理解には、なかなかの素養がひつようなのである。

しかし、そんなことには一切構わず、権威のありそうなアラブ人がひとりでも、「歩くコーランだといっている」ことで十分な自慢ができる。

それでもって、無批判に「日本式教育」を、日本人がおおいに自慢しているのが、一見無邪気ではあるけれど、かなり悪質でもある。

なにしろプロジェクトの名前が、あたかもできない子を励ますようで、実態は空虚そのものの「できるエジプト」なのだ。こんなタイトルをつけて恥じない日本人こそ、「恥の文化自慢」をするのではないのか?と恥じたくなる。

じっさいに、エジプト側の評価を集めると、とうてい無批判に受け入れている、ということではなく、むしろ教育専門家は、批判的であるようだ。

ことの発端は、「アラブの春」で、劇的な混乱とその後のクーデターによる政権交代(2013年)で、シシ大統領(軍事)政権が発足し、翌年の大統領選挙で安定化した。
シシ氏が来日して、日本の小学校での「特別活動(給食や清掃)」に感銘を受けたとして、大統領の肝いりではじまったのが、「EDUーPortニッポン」(2016年)なるプロジェクトである。

テレビもそうだが、基本的に「成功」としての報告がなされているのは、日本政府やJICAなどの立場からのもの「だけ」だからである。

しかし、エジプト側の評価は、上にあるように複雑なのである。

さてそれで、これらの「日本式」教育援助には、重大な前提が抜け落ちていることを書いておきたい。
第一に、それは、あたかも教育が「学校だけで完結する」ようにされていることにある。

また、アラブ諸国の、日本の成功の原因が教育にあるという認識も、その教育とはいつのものか?という前提が、いかにも「戦後」という位置付けになっている勘違いも指摘しておきたいのである。

端的にいえば、教育の基本は家庭であって、それは両親やその上の世代が家族として担うものであって、学校教育での限界もここにある。
つまり、それは家庭生活の中で得られるものを第一として、近代の学校とは、その補完機関でしかありえないことの認識欠如がある。

そして、欧米とちがって、わが国における家庭教育の質の高さに一切触れず、いきなり「特別活動」を「日本式」ということの意味が恣意的なのだ。

しかも、歴史的な寺子屋教育にみる、識字率の高さは、ヨーロッパにおける特権階級の地位を守るためにやった「文盲の維持」とは、まったくちがう社会的素地があることも無視している。エジプトはヨーロッパ(はじめはローマ帝国)による支配を、2000年間受けてきたのだ。

むしろ、日本の学校における「特別活動」は、前提に家庭での躾教育があって、それを学校で「復習」させていたのだといえる。

だから、こうした社会的素地のない外国で、いきなり「日本式」をやることの問題は、現地の専門家による批判になっている道理があるのである。

すると、アラブ人がいう、「歩くコーラン」をつくる日本式教育への評価とは、イスラム教の衰退を意味していないか?

このことは、アラブ人ユーチューバーが製作した、日本取材の動画でもみてとれる。
彼らは、日本人の暮らしにイスラムの精神を見出すからである。
すなわち、世界で最も敬虔なイスラム的生活者とは、日本人だ、と。

もちろん、そんなことを日本人は意識して生活してはいない。

ほとんどボタンの掛け違いになっている「日本式」のアラブ圏での普及は、将来、両文明間の深刻な軋轢とならないことを祈りたい。

邪悪な日本政府は、日本人の税金で「反日」を輸出している可能性が高いのである。

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