千葉の◯の乳搾り,とは?

ずいぶんまえ70年代のギャグである.
ストレートコンビという漫才師がはやらせた.
このフレーズ,子どもにはどういう意味かはっきりしないが,大人は吹き出して笑っていた.

その千葉県は,全国四位の農業県(北海道・茨城県・鹿児島につぐ)だが,生乳の生産では全国三位である.
それで,牛の乳搾り,のイメージが強かったのかもしれない.

しかし,一説には,朝早くからはたらくのを苦とせず,嫁をとるなら千葉のひと,というくらいの評判で,しかも千葉県人は「巨乳」揃いという前提が知られていたというから,なるほど「乳」がかぶっている.当時の大人が笑った理由がわかろうというものだ.

農業全国トップは北海道が一桁ちがいで圧倒しているが,二位茨城と四位千葉,三位鹿児島と五位宮崎という組合せは,奇しくも隣接県同士だから,これらをまたぐ観光はおよそ「食」についていえば,全国水準を相当に高いレベルで超えているはずだから,旅行者は格段の体験ができるはずだ.
だから,農協をふくめた「県」単位という行政の枠で競争(という足の引っぱりあい)をすると,方向をまちがえるだろう.

生乳の取引価格は政府が決めている.
飲用からさまざまな加工用で価格がかわる.なかでも飲用がもっとも高い値段設定(公定価格と事実上の取引価格も)になっているから,酪農組合は飲用で売りたい.
すると,チーズやバター向けの生乳が不足するようになる.

もとの生乳が物量的に不足しているのではなくて,加工用に売ると安くなるから売らないという仕組みが原因だから,政府の政策介入が「失敗」しているという典型例になる.
これを,「政府の失敗」という.(政府の恣意的な経済介入政策は,自由な市場をゆがめるからかならず失敗する,というのがいまや世界標準の「新自由主義」だが,日本人は戦前から「大嫌い」で,政府の介入が大好きだ)
これが,わが国でバターが入手困難になるおおきな理由ではないかといわれている.

それで,国産バターが「不足」すると,外国から輸入するのだが,これがまた「国家貿易」になっている.
農水省HPで,いぜんは1ページをつかって,「わが国は国家貿易をしています」とあっただけだったから,それにくらべると「説明」がふえた.

しかし,ひろく国民に知らしめよう,というこころを感じる書き方とはいえまい.
しかも,「国家貿易」として自由でない「輸入」が全国民にとっての問題なのに,「輸入」の方に説明の重心を置くという「姑息さ」である.
「参考」としてとぼけている「輸入」国家貿易をじっくりみてみよう.

「枠外輸入につきマークアップを徴収」とは,ありていにいえば,たとえばバターを緊急輸入しようとしたとき(枠外あつかい),「入札」をおこなって,もっとも安い値段で(政府が)買って,もっとも高い値段で(民間に)売ることで,国が利益(マークアップ)を得ますよ,ということだ.

なお,このときの「政府」とは,ちょっとまえの「畜産振興事業団」のことで,いまは「独立行政法人農畜産業振興機構」という.
だから,この「機構」が,自動的に大儲けできるようになっている.
日本は,21世紀になっても「輸入」の「国家貿易」をして,消費者という国民に負担を強いることを原則としている国なのだ.

かれらが儲けた分は,国民が世界価格より高く買わされることで負担している.
生乳のはなしにもどると,むかしとくらべてさまざまな飲料が販売されるようになったから,牛乳が牛乳として飲まれなくなった.

くわえて,少子で人口も減っているから,飲用牛乳の需要も減っている.
それで,一部の生乳産地では,値段がつかないから生乳を捨てることで価格の維持をはかったりしている.
この方法は,生産者とてやるせないだろう.

食生活がちがう,とはいうものの,欧米諸国を旅行すれば,ホテルの朝食でふんだんに出るチーズやヨーグルトなどの乳製品やハムなどの畜産加工品が,どうなっているのかとおもうほど豊富だし,パンのお供はバターに決まっている.
コーヒーミルクも本物のクリームで,椰子油を「コーヒーフレッシュ」とはいわない.
食品店にいけば,「本物」のその安さにおどろくものだ.

すると.欧米人が豊かな生活をしているのは,「物価」にも原因があると気がつく.
さいきんなぜかいわれなくなった「内外価格差」というダムが,日本市場にはあった.
戦前からの政府の産業優先策で,日本人の消費者は世界価格より高い値段を負担していた.
わが国で,先進国唯一のデフレがつづいているのは,このダムの決壊がつづいているからではないか?

とにかく,日本はどうなっているのだと思いたくもなるが,あんがい千葉に光があるかもしれない.

トルコのイスタンブールは,地中海から黒海につながる場所に位置して,ヨーロッパとアジアにまたがっている.この境目がボスポラス海峡である.
フェリーしかなかった時代から,長大な橋をかけて,海底トンネルも掘ったしまだ新しいのを掘っている.
日本は援助で橋とトンネルを一本ずつ完成させている.

東京湾は湾だからどん詰まりだが,これを横断すると,ボスポラス海峡のような気分があじわえる.
神奈川県側の工業地域が,千葉県側の田園地域とつながるからだ.
アクアラインを通って,圏央道で房総半島を横断すれば,あっという間に太平洋側にでる.

そこに,いすみ市という街がある.
かつての「夷隅郡」の一部だが,この街にはいま五軒のチーズ工房がある.
筆頭格で,チーズ作りの指導員でもある駒形氏のはなしによると,市内の酪農家にもチーズ製造指導をしていて,すでに弟子は400人をこえるという.
だから,チーズ工房の数は,もっと増えること確実である.

不思議なもので,共産中国において鄧小平がはじめた改革開放政策で,目玉だったのが「経済『特区』」であるが,なぜかそれが自由主義ニッポンで政権の目玉政策になっている.
日本が社会主義国である証でもあるのだが,だれも指摘しない.

だったら,いすみ市に,「チーズ特区」ができてもいい.
これを真似れば,どこかに「バター特区」もできるかもしれない.
さすれば,アクアラインで酪農大国千葉県に,買い出しにでかけるひとがふえるにちがいない.

いすみ市には,いすみブタという畜産資源もあるし,じつはたいそうな米どころでもあるから,ヨーロッパのような食生活ができるしかもしれないし,飽きたらバッチリ漁港直送のごはんもある.
買い出し旅行で,そんな宿泊経験もしてみたい.
ああ,夢はふくらむ.

残念なのは,市が標榜するキャッチフレーズが,「人と自然の輝く 健康・文化都市 いすみ」という,「いすみ」を入れないとどの町なのかさっぱりわからない凡庸さである.
まぁ,これは全国津々浦々でいえるのだが,もっと「田舎」や「田園」を売りにだして「いすみ」オリジナル感がほしい.どうしてこうなるのだろう?

それにしても,千葉の◯の乳搾りは,ますます忙しくなるかもしれない.

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