口が曲がるカルビクッパ

口中がヌルヌルした気持ち悪さがずっと残る化学調味料の味を感じてから、焼き肉屋での食事で納得したことがなくなった。
それに、わたしは「赤身」が好みなので、サシがたっぷり入っている「トロ」のような肉は好みではない。

焼肉店の高級感は、どうしてもサシがある脂肉の高級さに向かうのだろうけど、わたしにとっては高級の意味がちがうのである。
だから、「すき焼き」や「しゃぶしゃぶ」の専門店も、有名な店ほど美味いと思ったことがない。

どうしてあの脂肉を煮るのか?とか、湯に潜らせてわざわざ脂肪分と旨みを湯に溶かすのか?がわからない。
「シメ」のうどんとかラーメンが美味いのは、捨てた旨みを麺が吸い取るからだろう。

中学か高校生の頃だったか忘れたが、『美味しんぼ』で、「肉をもっとも不味く食べる方法」とあったのは、無条件に合点がいった。
なので、自宅でやるのはせいぜい赤身で作る「すき焼き」までで、「しゃぶしゃぶ」には興味がない。

ずいぶん前にとある機関投資家から、チェーン化したしゃぶしゃぶ店の再生のために社長職を依頼されたことがあったけど、自分が嫌いな料理の店を経営することの不道徳が嫌だったので、候補から落ちるように面接で嫌われるだろうことを発言して、無事を得た。

やっぱり肉は焼いたのが一番美味い。

父親が魚嫌いで肉好きだったので、子供時分から近所の焼肉店におそらくボーナスのたびに連れていってもらった。
何度か会社の集まりで、横浜駅裏にあった焼肉店にも同席したが、近所の店の方がずっと美味かった記憶がある。

いまからしたら、よく会社のカネで子供が飲食できたものだ。
同席している子供は、いつもわたしだけだったからである。

群馬、栃木、茨城の三県を「北関東」というけれど、神奈川県に住んでいるひとにはあまり、「南関東」という実感がない。

そもそも、横浜人は神奈川県民であることすら意識しないで暮らしているものだ。
せいぜい、神奈川県立高校に通ったことぐらいしか、神奈川県との付き合いがないし、かつての青春ドラマを絵に描いたような、ハッキリいってどうして教師になったのかに疑問を感じる教師陣であった。

県の有名度ランキングという、なんだかわからないもので、これら三県の全国における不動の下位に、「北関東」の意識がかえって高まっているようだ。
それでかしらないが、どういうわけか南関東にない飲食チェーン店が、北関東にはたくさんある。

神奈川県は「令制」でいう「相模国」と「武蔵国」とでできていて、いまの横浜市や川崎市は武蔵国にあたる。
なので、相模国との統一感はいまでも薄いと思われる。

それに、神奈川県から見ても、千葉県から見ても、「南関東」で一緒にされる道理はない。
東京湾すら、しっかり分断の原因なのである。

浦賀水道がアジアとヨーロッパを分けるボスポラス海峡のようでもある。

横浜から見たら川崎を下位においてきたけれど、川崎側のアンチ横浜意識はそれなりで、ずいぶん前に横浜中華街に対抗して、川崎コリアタウンを企画したことがあった。

東京の会社に通っていたとき、途中下車して川崎の焼肉店にはずいぶんお世話になったものだ。
けれども、化学調味料の味にどうして気づかなかったのか?はわからない。

この10年で、気がついたのである。

最初は、北関東の焼肉チェーン店で、カルビクッパを食べた後味の悪さであった。
それから、横浜の有名店での水キムチの「水」が、舌にこびりついて、シメのカルビクッパでとどめを刺された。

以来、焼肉店行脚がはじまって、なかなか合格店が見つからないでいる。
これは一体どういうことか?
結局のところ、「出汁文化がなかった」というのが結論か?

ここにも日本人の特殊性があるのかもしれない。
とにかく、日本人のふつうとは、料理の基本に出汁がある、という常識だからだ。
フランス料理でも、中華料理でも、それぞれに出汁がある。
フォンドボー(fond de veau)しかり、中華スープしかりである。

けれども、朝鮮半島に出汁文化はなかった。
それで、科学調味料使用が世界一になったのだという説がある。
つまり、何にでも入れる。

しかし、人類の歴史で科学調味料を発明した(1908年:明治41年)のは、日本人で、あの会社(製品化は1909年)を設立した。
朝鮮併合が1910年だから、あの会社の科学調味料が「同胞」のもとにも普及して世界一になったのだろう。

すると、正統なカルビクッパだから、化学調味料の味がする、ということになるし、それが全ての料理でそうなっているのだ。
さいきんでは、科学調味料不使用、という調味料が販売されていて、科学調味料完全不使用を看板にしているお店もある。

口が曲がるカルビクッパが正統だから、これは一体どう考えればよいものか?

ニューヨークの中華料理店で大量に使っていた化学調味料で口が曲がったのを、ニューヨーカーは「チャイニーズシンドローム(中華料理店症候群)」と呼んだが、これはスープの出汁をとる手間を省いたからであったけど、そもそも出汁文化がないものを「シンドローム」というのか?になる。

なんにせよ、唐辛子も日本から半島に伝播した(ちゃんと記録がある)ものなので、全部がここ数百年のあたらしい料理なのである。

やっぱり『チャングムの誓い』は、料理もファンタジーだった。

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