商品ではなく理念を売る

自社は、なにを売っているのか?

あんがいこれをちゃんと意識できていない企業はおおい。
ドラッカーは、自社がどんな価値を提供しているのかをみつけることが経営の肝心かなめだと指摘したうえで、それがなにかをみつけることの困難さ、について書いている。

つまり、自社は、なにを売っているのか?をちゃんとしっている企業は、おもった以上にずっとすくない、ということだ。

くわしくは、名著『マネジメント』にある。
大ヒットした『もしドラ』には、『マネジメント エッセンシャル版』なる「簡略版」の広告が裏扉についていたが、ひるむような大著の「原著」のほうをおすすめする。

 

 

アメリカ人の学者が書く「教科書」は、どの分野でもおおむね「大著」になっている。
その理由は、時代を代表する大学者が、懇切丁寧に説明しているからで、よってわかりやすさとページ数がトレードオフの関係になっている。

つまり、『マネジメント』という歴史的な価値もある教科書の原著は、ドラッカー自身が、かんで含めた説明をしているので、分量はあるがいいたいことが正確に表現されていてわかりやすい。
ページ数をすくなく要約した簡略版のほうが、じつは理解度という点で、はるかに難易度が高いことになるのである。

だから、「素人」ほど、簡略版にてをだすと「やけど」する。
「やっぱり、ドラッカーはむずかしい」になってしまうだろう。
そうはいっても、「原著」のボリュームはたいそうなものだから、気をいれて読まなければならない。

そこに目をつけた、いろんなひとたちが「解説本」をだしているという次第だから、ドラッカーは、くしくもじぶんの本の関連事業という分野も世の中に提供したのである。

「どうやったら売上がのびるのか?をおしえてほしい」

初対面でわたしも、何人かの経営者に質問されたことがある。
しかし、残念ながら適確なこたえをその場で提供することはできないし、もし、部外者のわたしがそのこたえをしっていたなら、コンサルタントなどという商売をとっくにやめている。

おおくの経営者がおちいっている「問題思考」は、ほんとうはなにを売っているのか?をしらないのに、売上の伸張だけをかんがえていることである。

わかりやすい説明として、ヤマト運輸を宅急便のヤマト運輸に育てた、小倉昌男『経営学』(日経BP社、1999年)がある。

この本でいう「サービスが先、利益は後」の「サービス」という用語が、ヤマト運輸のばあいにおいて、ドラッカーのいう「価値」を意味していることに注意したい。

だから、サービス業という共通項で、この用語「『サービス』が先」、と経営者がいうだけでは、残念ながら「詰めが甘い」ということになる。
自社にとっての「サービス」とはなにか?
そのサービスを購入してくれる、お客様の目的や利益とはなにか?を、自社なりに「追求しつくす」ことが必要なのだ。

「東京12チャンネル」という、地上波民放の「お荷物」といわれ、マイナー感がたっぷりあったテレビ局が、日本経済新聞社の傘下にはいって、「テレビ東京」と衣替えしたら、いまや独自番組で一目置かれる存在になっている。

ところが、例によって「免許」の関係で、関東近郊でも視聴できないエリアがある。
それで、月額500円という価格で、「オンデマンド契約」すれば、ネット配信という方法で、経済番組が見放題になる。

たとえば、新潟県。
わたしのクライアントに役に立つ番組が放送されたので、てっきりみなんさんが視聴していると思い込んで話題にしたら、「この地域では放送していない」といわれてこまったことがあった。
おなじことが、先般、伊豆半島でもあった。

今週の「カンブリア宮殿」で、回転寿司の「銚子丸」が紹介されていたが、まさに、「理念を売る」ことを実践している企業だ。
創業者の先代社長が、アメリカ視察で現地の経営者から直接指摘されて開眼したというエピソードがあった。

このアメリカ人経営者は、ドラッカーのよき読者か教え子だったのではないか?と推察する。

そのアメリカでは、とっくにテレビ受像機を製造していない。
かつての日本製テレビに市場が席巻されて、アメリカ人はアメリカ製のテレビをだれも購入しなくなったからだ。

そして、われわれ日本人は、そんなアメリカを傲慢にもバカにした。
テレビすら自国でつくれないとは、と。
しかし、アメリカではテレビよりも「進んだ」製品やサービスを売っている。
これが、「先進国」の「先進」の意味である。

なぜ、「先進」が達成できているのか?

商品ではなく理念を売ることに専念したら、いつの間にかそれが「先進」だったからである。
そのベースに、消費者の希望や要望が折り込まれているからだ。

ドラッカーは、アメリカで「生きている」のだ。

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