安ものではなく,いいものを買う

先日の資生堂が業務用品からの撤退を決めたコメントで,「儲かっている企業」の行動の説明がわかりにくいという声を頂戴した.
どいうことか,くわしくご紹介したい.

おなじ業界内でも,儲かっている企業とそうでない企業が混在している.
30年もたったバブル前なら,景気がいい業界とそうでない業界で区分できたから,ずいぶんとミクロ化したものだ.
これは,「情報」のキメの細かさという変化が原因だとおもう.

つまり,取引形態が B to B だろうが,B to C だろうが,顧客志向を追求しているという情報が手に入ると,そちらの会社の発注がふえる.そうやって,下請けからの脱却に成功した会社とそうでない会社に分離したのがこの30年だった,ともいえる.
インターネットがこれを可能にさせたのは,いうまでもない.
こうして,業界全体の浮沈から,企業単位の浮沈へと変化した.

すると,儲かっている企業にあって,そうでない企業にないものはなにか?をかんがえると,「経営戦略」ではないか?とおもいつく.
実際に,儲かっている企業は,たいへんな苦労をして,「勝ちパターン」を編み出している.
これを,ふつう「経営戦略」という.

裏返せば,儲かっていない企業には,「勝ちパターン」がないか,編み出されていない.
こういう会社ほど,あんがい社長はいい人で,かんがえるより手を動かすのが好きなことがある.
しかし,社長の最大の仕事は「勝ちパターン」を編み出すことだから,とにかくこれに集中してほしい.

さて,その勝ちパターンの「根底」のひとつに,相手が買っているもの(価値)を識っている(つきとめた),ということがある.
だから,自社ではそれを「追求した」商品を提供すればよい,というパターンになる.
相手が商売人であろうが,消費者であろうが,相手にとって「役に立つ」を自社で追求するのだ.

だから,想定顧客は重要なきめごとであり,その想定顧客がよろこぶ「価値」がなにかを追求することが必要になる.
こうした,「思考」をしていると,自社が他社からモノを購入するとき,「安い」だけでは選定基準になりえない.

この目的に合致したモノ「でなければならない」のである.
だから,どんなに値段が安くても,その目的に合致したモノでなければ購入しない.
ムダになるからである.
これが,「儲かっている企業」の思考と行動である.

たとえば,店舗の内装や備品類.
「想定顧客」という概念を無視すると,オーナーの「趣味」や「センス」での決定になる.
たまたま,それが「想定顧客」と合致すればよいが,そうでなければほぼ「残念なこと」になると想像するのはやさしい.

だから,これらをプロのデザイナーに発注するときには,かならず発注側が「要件書」を作成し,事業イメージを伝えるのだ.また,「プロ」であれば,これを発注側に要請する.
ところが,これを丸投げにするひとがいる.
発注側がなにも用意せず,いきなり予算を伝えて,絵を描いてくれ,と.

それではできない,といって仕事を断る「プロ」がいたら立派である.
しかし,現実には,仕事がほしいから,絵を描いてしまう.
工務店にいる社内デザイナーなら,材料を「工夫」して,すくない予算内におさめた提案をしてくれる.
それが,本来この店舗のコンセプトに合致するか問題なのだが,「プロ」はコンセプトまで作文してくれるから,こんなことを依頼する発注側は「有難い」とおもうのだ.

「プロ」からすれば,たとえ「仮」でも,コンセプトがなければ絵が描けない.
それで,発注側の意見を参考に作文する.
こうして,なにもかんがえなくても店舗はできる.
それでいまどき「儲かる店」ができたら奇跡である.
だから,それなりの店はできるが「成功」はしない.

もちろん,なかには凄いプロがいて,「儲かる店」をつくってしまうひとがいる.
しかし,これは、その「プロ」の店であって,発注したひとの店ではない.
だから,経年して「安くしようと」自己流に店舗をアレンジすると,もうちがう店になる.
「他人依存」の末路はさびしい.

「儲かっている企業」は,戦略があって事業コンセプトがある.
それに従った買い物をするから,「安い」でも「センス」でもないのである.

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