切れないラップ

「韓流ドラマ」がはやっていたころの作品で,「チャン・ヒビン」という全100話にもなる大河ドラマがあった.このなかで,主人公につぎのような台詞がある.

「身分が低くて卑しい者ほど命を惜しむ」

これは,大義なき現代に対するなかなかするどい批判だ.
日本なら「武士道」,ヨーロッパなら,「ノブレス・オブリージュ」を裏側から表現している.

それでか,「安全」の概念が近年は,「『絶体』安全」に変化している.
「命の大切さ」から,「命を惜しむ」へとなって,予防的見地から,「アンチエージング」が注目されている.
あたかも,「命あるものはかならず滅ぶ」という大原則をわすれてしまったかのようである.
「平家物語」の重要なテーマなのに.

「食品偽装」事件があいついで,その無責任さに唖然としながら,「異物混入」が「大事件」になる世の中になった.
「白」か「黒」か,「善」か「悪」か,の二元論は,わかりやすい分注意しないと窮屈になる.
切り干し大根に藁くずが入っているのが「異物混入」になる社会では,伝統食品から「伝統」を排除するようなものだ.

一方で,研究成果として「好ましくない食品」がでてきた.
その典型が,「マーガリン」だろう.
生乳の生産と,政府がさだめた生乳の買い取り価格制度が一致しないために,慢性的なバター不足になやまされるこの国で,むかし「人造バター」と呼んでいたマーガリンの需要は安定している.
そのマーガリンは,「トランス(型)脂肪酸」という分子構造で,これが人体でよからぬ働きをするから,米国などでは販売禁止の処置がとられている.
厚労省によると,日本人のマーガリン摂取量は,欧米人よりもすくないから「安全」なのだそうだ.「『絶体』安全」のキャンペーンをはるマスコミも,この件は沈黙している.

同じような事例があった.
それが,食品「ラップ」である.
ヨーロッパに行くと,おどろくべき品質のラップしかない.
日本製の有名ブランドは,パっと引いてピタッとくっつき,チャッと切れる.
ヨーロッパのラップは,ズルズルと引きだして,ほとんどくっつかず,ぜんぜん切れないからハサミをつかう.

それで,ヨーロッパ暮らしが長いわが同胞は,日本製のラップホルダー(カッター付)が必需品だという.友人知人には,日本からのお土産としてラップを依頼する.
これは,日本にやってくるヨーロッパからの観光客もしっていて,100円ショップやドラッグストアでの定番のお買い物アイテムになっている.それで,「日本のラップは進んでいる!」と書き込むひとがおおぜいいる.

どうなっているのだ?と,ヨーロッパのラップの箱をみてみると,なんと「電子レンジでの使用禁止」という表示があったりする.
意外なのはそれだけではない.「添加物:なし」とある.
ラップに「添加物」?

日本製の有名ブランドの箱を確認したら,「添加物」が「ある!」のだ.

つまり,日本製とヨーロッパ製のつかい勝手という品質のちがいは,材料がちがっていたのが原因だ.
しかも,ヨーロッパ(EU)は,食品ラップの材料に「添加物」をゆるしていない.
「安全」が「つかい勝手」のうえをいく.

そういえば,発がん物質の「タール」がいぶし工程で付着するからと,日本の「鰹節」を輸入禁止にしているのがEUだ.
ところが,EU内で製造すれば「通る」ので,フランスに鰹節工場ができる.
EUの官僚主義はこんなものか.

離脱を果たしたイギリス人は,日本品質のラップをこれ見よがしに使うかもしれない.

それにしても,ラップの添加物の「安全性」.
マーガリンをゆるす日本,鰹節輸入を禁じても域内製造をゆるすEU.
どちらがリスクとして「正解」なのだろうか?
食品専門家の「大義」をしりたい.

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