幹事の選択

いまでも団体ツアーがほしいという飲食店や宿はおおい.
なにしろ,むかしつくった「箱」がおおきい.
団体をメイン顧客に想定したのは,当時は正しかった.
バブル後,旅行形態が団体から個人にシフトしたから,大箱の施設ほど苦労している.

「団体」と一口にいっても中身はどうだろう.
「募集団体」なら,旅行会社が企画した商品に,たまたま集まった個人客の集団である.
ショッピングセンターの応募企画に当選したひとたちの「団体」もある.
そうかといえば,同窓会やクラス会などの,もともとが集団の団体もある.
「スナック」など,飲食店のお客が集まった「団体」ツアーもよくきくはなしだ.
団体がまったくない,ということではないが,口を開けているだけではそうそうやってこない.

事務は誰がやるのか?

募集団体や企画団体は,ある意味むかしからあったから,営業の方法もむかしからと変わらないだろう.いわゆる,エージェントまわりである.
個人が膨らんで団体になったのが同窓会やクラス会,それに個人経営のお店の宴集会である.
だから,これらの団体には,幹事という個人が存在する.
この個人こそが,決定権者だ.
同窓会やクラス会の幹事は,だいたい卒業前から変わらない.元学級委員が引き受けている.
あんがい一生つづくしごとである.
50代から,急に頻度をますのが学校関係の集まりだ.
元学級委員だった幹事は,それなりに出世しているはずで,事務能力がある.しかし,現役だと結構いそがしい.また,リタイヤといってもいろいろやることがある人物だと想像できる.企業の役員になっているかも知れない.
だから、手配の事務は負担である.

事務代行という営業

栃木県那須町にある芦野温泉には,「湯行会」という組織が各地に組織されている.
この会の分布密度は,ほとんど町内会なみで,自分の住所の比較的ちかくに「支部長」がいる.
ぜんぜん知らないひとだが,宿の壁にはズラーッと各地の「湯行会」支部長の顔写真と自宅の電話番号が掲示されている.
もはや個人情報保護法という国民孤立化政策を完全無視しているような鷹揚さで,むしろ清々しさまで感じるが,自宅のちかくにこんな「会」があるとは,おどろいたものだ.

この「会」は,支部長の都合で成立しているというから,またおどろきである.
支部に登録すると,支部長の都合できまった芦野温泉行きのツアー連絡がとどく.
日程(たいてい数泊の連泊を基本としている)と集合時間,場所が指定された連絡書で申し込む.

これらの手配は宿がしている.
支部長は,自分の行きたい日程を宿に伝えると,支部会員宛の連絡事務で出欠の確認をおこなって,それから,バス会社に連絡し,貸し切りバスを仕立てるというから,支部長本人がすることは,いつからいつまで行きたい,という希望を宿につたえることだけである.

おおくの会員は,万難を排して参加するという.はなしだけではにわかに信じられない.それで,ためしに現地へ行ってみて宿泊したら,本当だった.何回目かのおどろきである.
最初は,町内の老人会かとおもったら,そうではなく「湯行会」だという.本当の老人会も来るけれど,「湯行会」は少しはなれた人たちだから,「近所のしがらみがない」分,心底楽しめるらしい.

このビジネスモデルをまねる団体向きの宿を聞かないのも不思議である.
おそらく,「事務」ができないのだろう.
接客サービスばかりが「サービス」だというひとがいるけど,本当は「事務」というサービスがありがたい.
幹事をやればわかることだ.

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