英語力がないからリベラル

「リベラル」は,「Liberal」であって,「Liberty」に通じる.
いくつかの英和辞典で,「自由主義の」の後ろに「進歩的」という訳をつけているのは,戦後日本の事情を介したものか,それとも「第一次」(二次ではない)大戦後の英国の事情を介したものか?の説明はないから,あんがい不親切である.

ハイエクの名著「隷従への道」の新訳が日経BPクラシックスから出ているが,そのはじめにハイエク全集の編集者ゴールドウェル教授の序文がある。
「左派は第3章を、(中略)右派はアメリカペーパーバック版序文(本書に訳文掲載)を読むといい。そこではリベラルと保守のちがいが述べられていて興味深い。実際に読んでみたら、右も左も驚くことだろう。」

  

この序文には,出版当時(第二次世界大戦中)の英国で,著名な書評家が「読んでいない」(と告白している)のに,この本を酷評したエピソードも綴っているから,どちらさまも「そんなもの」なのかもしれない.
しかし,正反対の意味をもつ言葉をつかいわけるのは大変だ.
日本で「リベラル=進歩派」を自称するひとが,アメリカにいって自分は「Liberal」だと演説したら,けっこうブーイングの嵐に巻き込まれるだろう.

そういう意味で,日本語の「リベラル」は,「和製英語」になっている.
つまり,ネイティブに通じない「英語のようなもの」,なのであるが,通じないから「英語」ではない.
だから,「リベラル」というとちょっとかっこいい,気取った感じで言いきりながら,言葉の内容が「Liberal=自由主義」とは正反対の「進歩主義=社会主義」であっても,聴衆に英語力がないから,ぜんぜん問題にならない.

日本には,「和製英語」を研究している「英語圏」のひとがいる.


「バリバリウケる!ジャパングリッシュ」は,あたらしい「日本文化論」だろう.(残念ながら,本書は「Kindle版」だけの電子出版物である.)
ことばは文化そのもので,思考までも左右するからだ.
日本語しかできない日本人は,日本語でしかかんがえることができない.逆に,英語しかできない英米人は,英語でしかかんがえることができない.
ここに,決定的な文化の差がうまれる.

「ネイティブ」と呼ばれるひとたち,(日本人だって日本語ネイティブである)からすれば,和製英語はいけないもの,間違ったもの,と指摘するのは「親切心」からである.
むかし,わたしがエジプトにいたころ,日本人が大挙訪れていた時代で,観光客の外貨が欲しいエジプト政府から手始めにカイロ空港内での「日本語案内表記」についてアドバイスを求められたことがある.「手始め」というのは,街中でも「日本語案内」を計画していたからである.

当時,すでにいくつかの日本語案内表記があったが,だれが監修したのか不明の,どちらかというと「中国風」だった.郵便局には,「郵便」.トイレには,「便所」とおおきな案内看板があったが,文字が楷書でも行書でもなく,たいへん不思議なかたちをしていたのに,しっかり電飾看板だったから違和感もひとしおだった.

「表記内容」と「文字フォント」という問題よりも,きちんと届く郵便制度や,清潔なトイレが優先ではないか?というのが本音であった.
市内ですら郵便は届かないのが常識だったから,観光ガイドブックにも「注意書き」があったくらいで,だれも郵便物を利用しない.
国際空港としてあるまじき状態のトイレは,あしを踏み入れただけで我慢をしたくなったし,靴の裏さえ汚れた感じがしたものだ.だから,とにかく「清潔なトイレ」を主張した記憶がある.エジプト人の担当者は,それがいちばん難しいと言っていた.

さて,この「ジャパングリッシュ」で素晴らしいのが,和製英語のなかに英語として,「これはいけるかも」とおもえるものがある,という指摘である.
この発想はこれまでなかった.
「いけないもの」「恥ずかしいもの」としてしかの価値観だったのが,そうではないかも,というだけで変わる.

つまり,「日本の暮らし」のなかにあって,外国にないものが「輸出できる」ということだ.
これは,いままでもあったというが,あんがい「輸出」などしていない.
せいぜい,「お土産」の範囲をこえないものがおおい.
外国における,需要のリサーチというビジネスが,もっとあっていいだろう.

大企業向けでない,中小零細向けで,かつ,信用できるパートナーを探すことができれば,事業承継のおおきな助けになるはずだ.
縮む国内だけをみていたら,廃業したくなるだろうし,息子に強制もできない.
しかし,「売れる」となれば話は別である.

こうした点での,ネットワークづくりが,日本の弱みになっている.
個々の英語力よりも,ネットワークでなんとかする.
「リベラル」のひとたちに,がんばってもらいたい.

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