契約破棄で正義を得る

FOXニュースを解雇されたという、タッカー・カールソン氏の話の続きである。

歪んだ時代になったので、まともな契約社会でもなくなってきた。

そもそも欧米文化で、「契約」とは、「神との約束」を意味する。
それが、『旧約聖書』と『新約聖書』でいう、「約=契約」のことだからである。

「旧い契約」が、神(「ヤハウェ」)とユダヤ民族とが結んだもので、最初の人類である、アダムとイブが冒した「原罪:神との約束=契約を破って木の実(智恵の実)を食べたこと」を払拭して、「新しい契約」としたのが、イエス・キリストの説いた「新約:上書きした新規契約」となったのである。

それから約600年後に、やっぱり中東でムハンマドが神から直接啓示を受けて、これを書きとめたのが『コーラン』になった。
この意味で、『コーラン』は、「新・新約聖書」だともいえるけど、信者としてはイスラム教徒に限られる。

でも、それから1000年以上が経って、マルクスが『共産主義』という、新興宗教を、『旧約聖書:ユダヤ教』に真似て書いたので、ぐるっと回って一巡している。

それで、マルクスが共産主義から演繹して創造したのが、ありもしない「資本主義」という空想であるから、共産主義の「創世記」とは、原始共産制から資本主義時代までの、「歴史」ということになったのである。

たとえば、ノアの箱舟に匹敵するのが、資本主義の矛盾=不況や失業=不均衡、というやつで、古典派経済学も現代の新古典派経済学も、ありもしないし実現したこともない「均衡論」をいうのだ。
つまりは、どちらも、マルクスの手のひらの上で、論理的に踊らされているから、ぜんぜん論破できず、ソ連崩壊後に、かえってアメリカが赤く染まることになったのである。

しかしながら、人類は資本主義なる社会をいちども経験していないので、たんにマルクスの空想話をそのまま信じて今日にいたっているのである。
かくも恐ろしい宗教的な求心力にみちているのが、共産主義・全体主義なのである。

もしも、資本主義が社会に浸透したならば、すべての取引は「対等」かつ「平等」であって、いったん結んだ約束は、ぜったいに守る、という道徳社会でないと成立しないのが、また資本主義なのであって、この、ひとの心(道徳)に依存するのが、資本主義の脆弱性でもある。

つまり、素地として強固な道徳社会の成立がないと、資本主義体制は存在も存続もできない。

すると、人類が資本主義を経験したというなら、それは、唯一、江戸期から明治までの日本でしか存在しえなかった社会制度なのではないか?とかんがえるのである。

この意味で、近年の中国民間経営者たちで崇められた、 稲盛和夫の経済思想が、わかりやすい「資本主義哲学」であって、そのまた背景に、渋沢栄一の、『論語と算盤』がある。
しかしながら、このまた背景には、石田梅岩の「石門心学」があり、さらに、『万民徳用』の鈴木正三(しょうさん:1579年~1655年)まで辿ることができる。

  

産業革命が資本主義を成立させた、というのは、論理矛盾で、たんに中世からの資本集中が、産業技術(蒸気機関と紡績)の爆発的発展と結びついただけで、むき出しの欲望こそが英国をして世界を制覇しただけのことだった。

そこに、ただ一つの社会的発明が、「株式会社」だったし、成り行きから金工細工職人が金融業をはじめて、それがまた、銀行になっただけだったけど、「信用創造」という特殊機能が付いてきたのである。

その英国の、儲けの方法を真似たのが、オランダ(インドネシアに設立した「東インド会社」は英国より早い)であり、ヨーロッパ各国に伝染して、アフリカとアジアを席巻して征服したのである。
これより早く、南米を支配したスペインとポルトガルの衰退は、英国式を真似ることができなかった「先行者の不利」でもあって、相変わらず南米は停滞したままなのである。

ちなみに、ロシアからの天然ガス供給が絶えたヨーロッパで、フランスが原子力発電大国でいられるのは、ウラン鉱山がある西アフリカを相変わらずフランスが支配しているからである。

それでもって、世界は「保護貿易」で発展したが、先にゴールインした英国は、他国に真似られることをにらんで、「ウソ経済理論」をでっちあげたし、マックス・ウェーバーもしかりなのである。
このウソの仕掛けが、「自由(放任)貿易」をいう、「新古典派経済学」なのである。

こうした「欺瞞」が、いつしか「正論」になったのは、残念な歪みであるけれど、これをみんなで信じるような顕彰制度(たとえば、ありもしない「ノーベル経済学賞」)も設計して、社会的地位もあたえる仕掛けをつくって、とうとう「権威づけ」に成功した。

だから、とっくにいわれている、「ポスト資本主義」とは、資本主義のことだといったのである。

そんなわけで、タッカー・カールソン氏の発言封鎖の意味は、FOXニュースと彼との契約期間が2025年まであるとされ、この間カールソン氏は、FOXニュースから年俸にして、2000万ドルを得る(今後の合計で3000万ドル)代わりに、他社への転籍ができないともいわれているから、もしそうならば、完全に24年の大統領選挙における完全口止めを狙った仕掛けだともいえる。

昨年の中間選挙で、不正の匂いがプンプンするアリゾナ州知事選で、敗れてもその知名度は全米に轟いた、共和党トランプ派の星のひとり、カリー・レイク氏は、自身のニュース・キャスターの経験から、タッカー・カールソン氏へのエールを送っている。

それが、「契約破棄」の決断を促すことなのである。

彼女曰く、カールソン氏は上の仕掛けによって、「嵌められた」のだから、元の契約自体が無効だ、という論理である。

アメリカは、契約社会だという「神話」は、とっくに壊れているけれど、日本が道徳社会だという「神話」もとっくに壊れている。

なるほど、日・米の両国は、「鏡」のような存在なのである。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください