私説:デパート衰退のわけ

「不要産業」の代名詞が、デパートになってきた。

セブン&アイ・ホールディングスが売却を急ぐ、「そごう」と「西武百貨店」の従業員組合は、事ここに至ってストライキを実施する、としたものの、対象は西武池袋本店「だけ」という状態になったのである。

しかしながら、西武池袋本店は、新宿とはちがった地域からの客層でごった返す、「東京」のなかのひとつの中心地にある。

これがまた、「地方」との関係でいうと、田中角栄が意図した、「全国をくまなく・まんべんなく東京化する」という、あの、「日本列島改造論」に影響された、「東京の見本市」となったので、移動が困難で東京がまだ物珍しかった時代には、それでも重宝されたのである。

東海道新幹線のオリジナル計画で、「沼津駅」があったのを、ときの沼津商工会が顧客の東京への流出を懸念して、これが「大反対運動」となって、とうとう、隣の「三島駅」に決まった。
当時の孫にあたる、現商工会のメンバーは、沼津の経済衰退を、祖父達の変な努力のおかげ、と皮肉っているけれど、ほんとうか?

沼津経済は、そんな程度で興隆も衰退もするほど単純構造なのか?

わたしからみたら、この祖父があって、この孫がいる、という、「安易さ」がみごとに遺伝しているだけだとしかおもえない。
もちろん、これは、わたしの「感想」である。

その沼津に、デパートは消滅したとはいえ、大型SCは花盛りなのである。

それがまた、東京の大手不動産デベロッパーが、金太郎飴的なワンパターンでつくって、ワンパターンのテナント募集をするので、地域特性がほとんどないナショナルブランドのオンパレードになっている。

このことは、世界でも起きている。

王太子時代がえらく長かった、英国のチャールズ3世が書いた、『英国の未来像』(東京書籍、1991年)で、ヨーロッパ各地につくられているSCの貧しい建築における「思想の貧困」を批判している。

わたしは、チャールズ3世がいう貧しさを、地元横浜の「ランドマーク・プラザ」がそれだ、と勝手に特定して見物している。

この商業店舗群のつくり方とおなじものを、ルーマニアのブカレストや、ブルガリアのソフィア、ポーランドのワルシャワで観ている。
ロンドンにも、パリにも、ほぼ世界中に点在していることだろう。

そんななか、アメリカ・カリフォルニア州で160年以上の歴史をもつデパートメントストア「メイシーズ」が、とうとう閉館の苦境に立たされている。

この最大の理由が、「治安の悪化」だ。

アメリカ民主党政権(カリフォルニア州のこと)が2014年に成立・住民投票で承認された、「Proposition 47」で、950ドル以下の窃盗は「軽犯罪」となったのである。
それで警察当局は、捜査をしない、と決めたのである。

つまり、カリフォルニア州は、「万引き天国」と化した。

もっとも、カリフォルニア州は、あの有名な、歴史上もっともついていない不幸に見舞われた、ズータ氏の牧場から出た砂金が、持ち去り放題になってズダズダにした末裔が住んでいる地域だ。

血は争えない。

所有権の絶対が崩壊すれば、近代社会はたちまち無法地帯となる。
その意味で、カリフォルニア州は、「中世以前」に回帰したので、近代社会ではなくなった。
人口が他州へ流出をはじめたのは、近代社会で生活したい、ということでの引っ越しコストになっている。

さてそれで、デパートの衰退とは、徹底した「セレクト・ショップ」でもなく、なんだか漫然と商品が陳列棚にある、という景色一辺倒になったことに尽きるとおもう。
加えて、もうひとつが、買う側の無教養だ。
商品選択にあたっての「目利き」の目がないことを、ここでは無教養という。

おそらく、地方都市でも伝統文化を子供に教えないために、地元産品の目利きもいなくなってきているはずなのだ。

するとこれは、アメリカ式マーケティングリサーチでは問題解決できない。
むしろ、「生活の歴史=民俗」の問題なのである。

となると、誰がトータル・コーディネートするのか?よりも、完全なる暮らしの理想モデルはなにか?をいったん描いて、そこからの「優先順位的な提案」を観せてみたい、というのが、消費者へ教養を付与する一歩となる。

こうした「社会的使命」をすっかり失念したがゆえに、「不要産業」と評価されるに至ったのである。

アメリカナイズして、自らを鍛えたつもりの、セブン&アイ・ホールディングスの浅はかさは、コンビニで強調したい細かな気づかいの日本文化とは別のタイプの日本文化をアッピールすべきところが、その区別ができないザマに陥ったのである。

だからアメリカから輸入した経営学や経済学が通じない。
むしろ、国文学や歴史をしっかり重視していたら、とおもうと惜しい。

結局、残念な経営者が会社を潰す、の法則はなんら変わらないのであった。

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